ISISの若い工作員のツイートの片鱗から、片言の日本語ながらもその文意の中に驚くべき指摘が隠されていたことに気づいた。このツイートなんだが、彼は、「なぜ日本人は湯川氏が”事前に”殺害されていた可能性を疑わないのか理解できない」という趣旨のことを書いている。
> 正しい, 日本政府や日本市民がyukawaの殺害が前にされていたことを疑わないことが我々は理解しない
つまり交渉前、身代金要求の例のお粗末な合成ビデオを公開する前に、湯川氏が殺害されていた可能性をなぜ検討しないのだろうという主旨の発言だと思う。これは重大な指摘である。そして、ビデオが合成されていることとも整合する。
つまり、あのビデオは生前の湯川氏と現在の後藤氏を合成したものであるということではないだろうか。72時間という、230億円を支払うのにはあり得ない短期間の条件も、そもそも支払われる訳がなく、既に処刑されている前提があればこその無茶な条件だった。そう、考えることができるのではないか。
むしろISIS側は、湯川氏を殺しておいたことへの動機付けが必要だった。そのために到底承服不可能な条件を突きつけ、事後の映像をいまになって公開したのではないか。そうすると、今回の後藤氏の解放条件が本命だということが見えてくる。
ISISのラジオ放送の動画がNHK等で確認されてはじめて、日本の報道各局は湯川氏が殺害されたことを認め始めたようだが、アメリカのオバマ大統領はいち早く、日本政府が生存を確認しているさなかに「哀悼の意」を伝えるメッセージを安倍首相に伝えた。つまり米側は死亡が事実である確証を持っていることの表れだ。
湯川氏が要求の事前に既に殺されていた理由は、「シリアに武器を卸していたこと」が動機らしい。それは若き工作員のこのツイートから判る。
>あなたの国は報道されていませんか? yukawaは銃を持ち Syria軍に銃を商売
つまりISIS側には湯川氏を生かしておく理由がなかった。だから処刑した。その事を隠し、生前の動画を使って湯川氏処刑の正当性を作り上げた。
それが、この短い彼のツイートから推測できるシナリオである。そうなると、ISISにとって利用価値があり、取引材料となるのは、生存している後藤氏の方ということになる。こちらが本命であり、交渉の唯一の材料。
今は亡き元イラクのアルカイダ最高幹部(米軍により2006年に殺害)の妹を取り戻すこと。その前段として、既に人質が一人殺されたという見せしめを行うことで、本来の目的である捕虜奪還を確実に達成できるようにしようとしている。そういうことなのではないだろうか。
さらに、日本政府はこの事実を把握していた可能性もある。湯川氏が拘束されたのは2014年8月で、そのことはただちに報道され、政府も当然承知し、先の官房長官の発表にあったように交渉はその頃から続けられてきた。ただ、途中で交渉が難航したことがあった。その時、実は湯川氏は交渉決裂により処刑されたのではないか。
政府はこれを承知しつつ、その事実をひた隠しながら、報道からも湯川氏のことが報じられなくなる頃、突如浮上したのが、解散総選挙だった。この選挙で自民党は確実に圧勝する計算があったようで、野党に躍進があったとしても絶対過半数を維持できるという確信があって、敢えて総選挙を行った。
結果、野党躍進はあったものの、それでも政権運営・国会運営に支障のない絶対安定多数を確保した。更に、湯川氏拘束や交渉の経緯などは、完全に忘却の彼方に忘れ去られた。そこに、外務省の策動によるものかわからないが、問題の文言が中東での発表に含められ、”寝た子”を起こす結果となった。
政府は湯川氏殺害の事実をこの時点で把握しており、つまり『テロに屈しない』という姿勢を頑なに守るという「正義」を世界に示せればよかった。人質は既に死亡しているのだから、奪還はできない。交渉したらノーコンセッションの原則に背くことになり、対テロ戦参戦の足並みを乱すことになる。
だから処刑の一報がISIS側からもたらされると、政府寄りのメディアではその是認に躊躇が見られ、そこにISIS側がダメ押しのラジオ放送で公式に発表を行い、アメリカ側もあっさりとこれを事実と認めたため、日本の各局も死亡を事実として報じざるを得なくなった。
これが現在に至るまでの真相ではないだろうか。つまり、これからが本番。本当に人質の生死をかけた交渉が始まる。その取引材料は、有志国軍のヨルダンとしても、これを先導する米英としても決して交換を認められる人物ではない。幾ら日本が多額の「人道支援」を行っているとしても、そのために刑の執行まで確定している死刑囚の交換に応じることができるか。
ISIS側・日本政府側の facade(見せかけの攻防)に世界はすっかり踊らされたが、これからが本当のテロリストとの交渉であり、肝心要のイベントとなるのではないか。この交渉でヨルダンに超法規的、かつ国王の権威すら落とす決定をさせられるかどうかが、日本の中東での価値を指し示す試金石となる。
米英は解放に全面的に協力すると表明しており、これは特殊部隊導入による奪還作戦すら含まれる可能性がある。幸い、今回の交渉には期限が明示されていない。つまりじっくりと腰を据えて対応を検討できる。ISISとしてもそれが望むところなのだろう。
湯川氏の遺族や友人には申し訳ないが、湯川氏の命はテロ集団と日本政府のかけひきの中で早くに失われていた可能性がある。憎むべきは、殺害を実行したテロ集団であるが、そのようなリスクを冒すことを可能にし、かつ交渉に失敗し、敢え無く死なせてしまった日本政府も同様に憎まれて然りだろう。
残った後藤氏が殺害される理由に、湯川氏のように利敵行為を行ったという理由はない筈だ。この「利敵行為」については日本政府の関与を疑う説もあるが、現在の焦点は殺す動機のない筈の後藤氏の殺害をどう食い止めるか、この一点にある。政府の総合的な情報力・交渉力が問われるのはこの時点からだ。
これで後藤氏の奪還にも失敗するような政府で、そのために貴重な人的資源としてのハサン中田氏のような橋渡しできる人物の申し出を断り続けるというのなら、それは政府として「国民保護のためにあらゆる手段を講じる」ことへの怠慢であり、実は初めから解放を求めるつもりなどないことの証左となるだろう。
その時に初めて、この一連の事案における安倍政権の目的が明らかになる。対テロ戦への本格参戦、関連法制整備のための理論(情緒的)武装、そして自衛隊海外派遣恒久法の成立と施行。名実ともに、有志国軍の一員となり、ISISとの対テロ戦に参戦し米英等各国との軍事的連携を深めること。
もしそんな政権の思惑のために後藤氏がスケープゴートにされようとしているのならば、心ある国民はこれをなんとしても阻止しなければならない。民意の総合力で、場合によってはISIS側に直接訴え、挑発ギリギリの嘲笑作戦を並行展開し、”私たちの対テロ戦”を展開するのだ。
日本政府の意図が不透明かつ、既に同胞を一人見殺しにしている事実を考えれば、「国民を守る」という責務のために政府が国家の利益を放棄するとは考えられない。私たち自身で、勝手に、できることを、各々でやるしかない。国家によるテロ・テロ集団によるテロ、あらゆるテロを抑止するために。
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