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2015/01/30

邦人人質殺害事件: 後藤健二さんの妻リンコさんの公開手記(日英併記)

後藤健二さんの妻リンコさんの公開手記(日英併記)

A statement from the wife of Kenji Goto (retranslation in Japanese)



私の名前はリンコ。シリアで武装グループに拘束されているジャーナリスト、後藤健二の妻です。2014年10月25日、健二の存在は私から奪われました。以来、私は彼を解放するために人知れず必死に取り組んで参りました。

My name is Rinko. I am the wife of Kenji Goto, the journalist who is being held by a group in Syria. He was taken from me on 25 October 2014, and since then I have been working tirelessly behind the scenes for his release.

これまで私が声を上げなかったのは、健二の陥った苦境により世界中のメディアの関心が集まる中で、子どもたちと家族を守らねばならなかったからです。

I have not spoken out until now as I have been trying to protect my children and family from the media attention Kenji’s plight has created around the world.

私たち夫婦には、二人のとても幼い娘たちがいます。健二が日本を離れた時、私たちの新しい赤ちゃんは生後わずか三週間でした。まだ二歳の上の娘が、再び父親に会えることを、私は願ってやみません。二人の娘には、父がどんな人であるかを知りながら、成長してもらいたいのです。

My husband and I have two very young daughters. Our baby girl was only three weeks old when Kenji left. I hope our oldest daughter, who is just two, will get to see her father again. I want them both to grow up knowing their father.

夫は善良で正直な人間です。シリアに赴いたのも、苦しむ人びとの困窮した姿を伝えるためでした。健二は、湯川遥菜さんの状況も確認するつもりでおりました。その遥菜さんが亡くなり、私は深い悲しみに包まれました。そしてご家族の皆様に思いを馳せました。皆様がどれだけつらい思いをされているか、私には痛いほどわかるからです。

My husband is a good and honest man who went to Syria to show the plight of those who suffer. I believe that Kenji may have also been trying to find out about Haruna Yukawa’s situation. I was extremely saddened by the death of Haruna and my thoughts go out to his family. I know all too well what they are going through.

健二がトラブルに巻き込まれたことを私が知ったのは、12月2日のことでした。健二を拘束したグループからメールを受け取ったのです。

I became aware that Kenji was in trouble on 2 December when I received an email from the group holding Kenji.

湯川遥菜さんと健二の身代金として二億ドルが要求された動画を見たのは、1月20日でした。それ以来、私はグループと何回かメールをやりとりし、彼の命を救おうと必死で戦い続けました。

On 20 January I saw the video demand for $200m for the lives of Haruna Yukawa and Kenji. Since then, there have been several emails between the group and me as I have fought to save his life.

過去20時間に及ぶやりとりの中で、犯人グループは私宛に、最新で最後の要求と見られる次のような文章をメールで送ってきました。

In the past 20 hours the kidnappers have sent me what appears to be their latest and final demand:

「リンコ、このメッセージを世界のメディアに対して公開し、暴露しろ。さもなければ、次に殺されるのは健二だ。」

"29日木曜の日没までに、健二との交換のためサジダ(リシャウィ死刑囚)がトルコ国境付近に現れない場合、ヨルダン人パイロットを即座に殺す。"

Rinko,
YOU MUST PUBLICISE AND EXPOSE THIS MESSAGE TO THE WORLD MEDIA NOW! OTHERWISE KENJI WILL BE NEXT!
If Sajida is not on the Turkish border ready for the exchange for Kenji by Thursday 29th Jan at sunset, The Jordanian pilot will be executed immediately!

恐らく、これが健二の最後のチャンスとなるでしょう。健二を解放し、ヨルダン人パイロットの命を救うには、あと数時間しかありません。二人の運命は、ヨルダン政府と日本政府に委ねられています。どうかそのことをご理解ください。

I fear that this is the last chance for my husband and we now have only a few hours left to secure his release and the life of Lt. Mu’ath al-Kaseasbeh. I beg the Jordanian and Japanese Government to understand that the fates of both men are in their hands.

両国政府の懸命な努力に感謝しております。ヨルダンと日本の人々が示してくださった慈しみの心にも感謝しております。私は子供のころ、家族とヨルダンに住み、12歳になるまでアンマンの学校に通っていました。だから、私にはヨルダンとヨルダンの人々に、特別な感情と思い入れがあります。

I thank the Governments of Jordan and Japan for all their efforts. I thank the people of Jordan and Japan for their compassion. My family was based in Jordan when I was young, and I went to school in Amman until I was 12 years old, so I have great affection and fond memories of Jordan and its people.

最後に、過去三ヶ月にわたり私と娘たちを支えてくださった家族や友人、夫の同僚の皆様にも感謝しております。

夫とともにヨルダン人パイロットのムアーズ・カサースベさんの無事も祈っております。

リンコ

Lastly I (thank my family, friends and Kenji’s colleges for the support they have shown my daughters and me over the last 3 months.
I pray for the lives of my husband and the Jordanian pilot Lt. Mu’ath al-Kaseasbeh.
Rinko

Retranslation by Office BALÉS
Source: (en)(jaTwishort | Facebook

2015/01/26

緊急コラム:邦人人質殺害事件③ 故・湯川遥菜さんに捧ぐ #HarunaYukawa #KenjiGoto #ISIS



故・湯川遥菜さんに捧ぐ


心あるジャーナリストは官房長官、外務大臣、或いは総理大臣に、機会のある時にこう尋ねてみるといい。

「政府として把握している湯川さんの死亡推定時刻は何年何月何日の何時何分頃なのでしょう」と。遺族に死亡日時も伝えられないのでは、政府としての面目が立たないのではないか」と。

湯川氏が14年の8月時点で交渉決裂により殺害されていたのか、それともそれから少し生き延びて、でも後藤氏と捕虜として再会した前後に殺害されたのかは、現存する情報からでは把握できない。ただし、あの脅迫動画の”前に”殺害されていただろうことは確かだ。それがいつかは、脅迫を起点にするとそれほど重要ではない。

思えば湯川氏も数奇な人生を辿った。
というより、自らの選択で数奇な人生を選んできた。

海外のメディアでも繰り返し登場するのは、湯川氏が性転換を図ってみたり、自殺を試みたり(未遂で終わったのは家族による蘇生があってのことだったという)、名前を変えたりしてきた。そして、唯一自分の選択でなかった不幸が、奥様の病死だった。肺癌だったという。

彼を激戦地のシリアに赴かせたのは、彼なりの使命感だった。しかし実践経験の少ない彼にはどうしてもお守り訳が必要だった。そのお守り役を引き受けたのが、ベテラン戦場ジャーナリストの後藤氏だった。

NYタイムズのこの記事によると、後藤氏はよき師匠でありよき友人であったようだ。

湯川氏は必死に後藤氏について行き、イラクに侵入した時は後藤氏の助手という位置付けだったという。後藤氏からすれば、手のかかる、でもかわいい弟子というところだろうか。二十年来、ジャーナリストとして常に弱きを助けてきた後藤氏からすれば、危なっかしい湯川氏はかわいい、でもかけがえのない愛弟子だったんだろう。

記事によると、湯川氏はISISに捕まる以前、自由シリア軍FSAに捕まっていたという。後藤氏はこの時に初めて湯川氏を救援に行き、この時はこれに成功し、なんとしばらく湯川氏はFSAと行動を共にしたのだという。この時点で、湯川氏はISISの潜在敵になっていたのだ。そして湯川氏自身も、ISISを敵対視していた。

8月にISISに拘束された時、湯川氏はたしかに自由シリア軍と行動を共にしており、その捕虜として捕まった。つまり、一般の民間人ではなく、敵軍のスパイとして捕らえられたというISISの主張は事実だったのだ。しかし実践経験の乏しい湯川氏は、「敵」であるISISに追及を受け、そして語学力の無さも相俟って、自分に不利な証言ばかりしてしまう。

結果として、湯川氏は「怪しい自由シリア軍の側の人間」で、しかも武器を売っていた(売ろうとしていた)ということで、敵兵として処刑されたのだろう。この時点で、後藤氏が湯川氏と行動を共にしていたかは謎だが、後藤氏はその現場には居合わせなかったのだろう。

そして10月、再びシリアに戻ってきた後藤氏は、ISISに拘束され、湯川氏の死を知らされたのではないかと思う。それからISISは日本政府の出方をうかがっていて、決定的なきっかけとなるカイロでの安倍首相の声明を引き金に、脅迫行為を表面化させた─そんな、ところではないだろうか。

様々陰謀論はあるが、政府関与説も訊かれるが、湯川氏が殺害されていたというその事実が、政府にとってはいずれによ彼らは使い捨てでしかなかったことは見えてくる。シリアへの入国が政府関与のもとで行われたのであれ、自由意思で裏ルートで行われたのであれ、結果は同胞一人の死亡と、もう一人の生命の危機という現実に帰着する。

死して湯川氏は、米・英・仏の国家首脳から名指しでその死去を悼まれる存在となり、各国政府の公式声明の記録に残り、歴史に名を遺した。

不謹慎ながら、数奇な人生を送ってきた湯川氏にとって、もしかしたら彼は名誉に思っているのではないだろうか、と思ってしまう。

そういう風に納得して、彼の荒ぶる魂を鎮めたい。

心よりご冥福をお祈りいたします。

May your soul rest in peace.
Haruna Yukawa.

緊急コラム:邦人人質殺害事件② #ISIS 最高指導者バクダディの狙いは金ではなく、最高権力の継承と拡大 #HarunaYukawa #KenjiGoto #ISIS

追記:ISISが後藤氏との交換による奪還を目指すサジーダ・アル=リシャウィ(Sajida al-Rishawi)死刑囚の素性については、CNNが特集記事を組み、日本のパートナーである朝日が既に日本語版記事も発しているのでそこで彼女の持つ重要性が把握できる。ここではCNNの記事に沿って追記する。


リシャウィ死刑囚は05年のヨルダンホテル自爆テロ事件で自爆テロに成功して死亡したの首謀者の妻で、妻の方はテロに失敗し当局に拘束され、06年死刑を宣告された。しかしなぜか同年特赦がおり、死刑は執行されず、13年12月に再開されたが、彼女の番はまだ回ってきていないという状況にある。

リシャウィ死刑囚は06年に米軍の空爆により殺害されたアルカイダの最高指導者だったアブ・ムサブ・アル=ザルカウィ(Abu Musab al-Zarqawi)の”右腕だった”男の妹である可能性が高いと、ヨルダン副首相のマルアン・ムアシャー(Marwan Muasher)はCNNに語った。元米軍デルタフォース司令官のJ・リース中佐(Lt. Col. James Reese)によれば、その男は現ISIS最高指導者であるアブ・バクル・アル=バクダディ(Abu Bakr al-Baghdadi)の妹である可能性があると考えている。



2014年2月に完全に分裂するまで、アルカイダとISISは一心同体だった。ISISの前身は2004年に設立されたアルカイダ・イン・イラクなのだが、ISISと別の内部組織アル・ヌスラ戦線との間で内紛が激化し、ついにアルカイダに絶縁を宣言され、ISISはアルカイダから独立した別組織として生まれ変わった。

その指導者となったのが、アルカイダ・イン・イラクの創設者であり最高指導者のザルカウィの側近だった、バグダディ司令官だった。ザルカウィにアルカイダが支配されていた頃に、リシャウィはおそらくザルカウィの命令で自爆テロを実行させられた。しかし彼女はテロ決行当時、自爆装置のついたベルトを着用しておらず、また夫は彼女とは反対外のアイルで、自爆時には場所を離れるように忠告したらしい。

つまりザルカウィは彼女を殺すつもりだったが、彼女の夫は自分だけ自爆するつもりだった。おそらく、彼女の兄で副官の命、あるいは願いに従ったのだろう。つまり、今回の捕虜交換・妹の奪還は、バクダディにとって私怨以外の何物でもないが、同時にアルカイダから分離独立した自身の最高権力の掌握・継承を示す儀式のようなものなのだろう。

アルカイダ時代にザルカウィに強要された妹による自爆テロ。そして囚われの身となった妹。彼女を取り返すことこそが、ザルカウィに対する私怨を晴らすことであり、自らがザルカウィを超える指導者となったことを示すことにも繋がるのだろう。

だからこそ、13年8月に既に殺害していた湯川氏は当然ながら眼中になく、後藤氏を取引材料として死刑執行直前の妹を取り戻すこの作戦には、バクダディ司令官の並みならぬ意思が込められていると考えるのが賢明だ。ただ同時に、時間的制約があり、万が一死刑を止められなければ、その時取引材料としての後藤氏は価値をなくす。つまりリシャウィの存命中が、日本政府の有効交渉期間となる。

更にバグダディはこの作戦をなんとしても成功させたいため、譲歩に応じる可能性もある。問題はヨルダン側で、有志国軍を主導する米英軍も決してバクダディの要求に応えようとはしないだろう。そして日本政府はそのことを十分承知している筈だ。この一件で存在感を示せば、有志国軍に加わりやすくなる、という位に考えているかもしれない。ヨルダンにも恩を売れる。

こうした背景情報を日本政府も把握しているのだとすると、後藤氏の奪還はますます遠い現実のように思えてくる。が、しかし。政府に捕虜交換の意思が無いと思えるからこそ、同胞を憂う国民が自ら行動を起こすしかないのである。各国様々な思惑が渦巻く中で、今の安倍政権ほど信頼できない政権はないのだから。

以上

緊急コラム:邦人人質殺害事件① あらゆる“テロ”を抑止すべく、国民が動くしかない #HarunaYukawa #KenjiGoto #ISIS #IAMNotAbe

ISISの若い工作員のツイートの片鱗から、片言の日本語ながらもその文意の中に驚くべき指摘が隠されていたことに気づいた。このツイートなんだが、彼は、「なぜ日本人は湯川氏が”事前に”殺害されていた可能性を疑わないのか理解できない」という趣旨のことを書いている。

> 正しい, 日本政府や日本市民がyukawaの殺害が前にされていたことを疑わないことが我々は理解しない 


つまり交渉前、身代金要求の例のお粗末な合成ビデオを公開する前に、湯川氏が殺害されていた可能性をなぜ検討しないのだろうという主旨の発言だと思う。これは重大な指摘である。そして、ビデオが合成されていることとも整合する。

つまり、あのビデオは生前の湯川氏と現在の後藤氏を合成したものであるということではないだろうか。72時間という、230億円を支払うのにはあり得ない短期間の条件も、そもそも支払われる訳がなく、既に処刑されている前提があればこその無茶な条件だった。そう、考えることができるのではないか。

むしろISIS側は、湯川氏を殺しておいたことへの動機付けが必要だった。そのために到底承服不可能な条件を突きつけ、事後の映像をいまになって公開したのではないか。そうすると、今回の後藤氏の解放条件が本命だということが見えてくる。

ISISのラジオ放送の動画がNHK等で確認されてはじめて、日本の報道各局は湯川氏が殺害されたことを認め始めたようだが、アメリカのオバマ大統領はいち早く、日本政府が生存を確認しているさなかに「哀悼の意」を伝えるメッセージを安倍首相に伝えた。つまり米側は死亡が事実である確証を持っていることの表れだ。

湯川氏が要求の事前に既に殺されていた理由は、「シリアに武器を卸していたこと」が動機らしい。それは若き工作員のこのツイートから判る。



>あなたの国は報道されていませんか? yukawaは銃を持ち Syria軍に銃を商売


つまりISIS側には湯川氏を生かしておく理由がなかった。だから処刑した。その事を隠し、生前の動画を使って湯川氏処刑の正当性を作り上げた。

それが、この短い彼のツイートから推測できるシナリオである。そうなると、ISISにとって利用価値があり、取引材料となるのは、生存している後藤氏の方ということになる。こちらが本命であり、交渉の唯一の材料。

今は亡き元イラクのアルカイダ最高幹部(米軍により2006年に殺害)の妹を取り戻すこと。その前段として、既に人質が一人殺されたという見せしめを行うことで、本来の目的である捕虜奪還を確実に達成できるようにしようとしている。そういうことなのではないだろうか。

さらに、日本政府はこの事実を把握していた可能性もある。湯川氏が拘束されたのは2014年8月で、そのことはただちに報道され、政府も当然承知し、先の官房長官の発表にあったように交渉はその頃から続けられてきた。ただ、途中で交渉が難航したことがあった。その時、実は湯川氏は交渉決裂により処刑されたのではないか。

政府はこれを承知しつつ、その事実をひた隠しながら、報道からも湯川氏のことが報じられなくなる頃、突如浮上したのが、解散総選挙だった。この選挙で自民党は確実に圧勝する計算があったようで、野党に躍進があったとしても絶対過半数を維持できるという確信があって、敢えて総選挙を行った。

結果、野党躍進はあったものの、それでも政権運営・国会運営に支障のない絶対安定多数を確保した。更に、湯川氏拘束や交渉の経緯などは、完全に忘却の彼方に忘れ去られた。そこに、外務省の策動によるものかわからないが、問題の文言が中東での発表に含められ、”寝た子”を起こす結果となった。

政府は湯川氏殺害の事実をこの時点で把握しており、つまり『テロに屈しない』という姿勢を頑なに守るという「正義」を世界に示せればよかった。人質は既に死亡しているのだから、奪還はできない。交渉したらノーコンセッションの原則に背くことになり、対テロ戦参戦の足並みを乱すことになる。

だから処刑の一報がISIS側からもたらされると、政府寄りのメディアではその是認に躊躇が見られ、そこにISIS側がダメ押しのラジオ放送で公式に発表を行い、アメリカ側もあっさりとこれを事実と認めたため、日本の各局も死亡を事実として報じざるを得なくなった。

これが現在に至るまでの真相ではないだろうか。つまり、これからが本番。本当に人質の生死をかけた交渉が始まる。その取引材料は、有志国軍のヨルダンとしても、これを先導する米英としても決して交換を認められる人物ではない。幾ら日本が多額の「人道支援」を行っているとしても、そのために刑の執行まで確定している死刑囚の交換に応じることができるか。

ISIS側・日本政府側の facade(見せかけの攻防)に世界はすっかり踊らされたが、これからが本当のテロリストとの交渉であり、肝心要のイベントとなるのではないか。この交渉でヨルダンに超法規的、かつ国王の権威すら落とす決定をさせられるかどうかが、日本の中東での価値を指し示す試金石となる。

米英は解放に全面的に協力すると表明しており、これは特殊部隊導入による奪還作戦すら含まれる可能性がある。幸い、今回の交渉には期限が明示されていない。つまりじっくりと腰を据えて対応を検討できる。ISISとしてもそれが望むところなのだろう。

湯川氏の遺族や友人には申し訳ないが、湯川氏の命はテロ集団と日本政府のかけひきの中で早くに失われていた可能性がある。憎むべきは、殺害を実行したテロ集団であるが、そのようなリスクを冒すことを可能にし、かつ交渉に失敗し、敢え無く死なせてしまった日本政府も同様に憎まれて然りだろう。

残った後藤氏が殺害される理由に、湯川氏のように利敵行為を行ったという理由はない筈だ。この「利敵行為」については日本政府の関与を疑う説もあるが、現在の焦点は殺す動機のない筈の後藤氏の殺害をどう食い止めるか、この一点にある。政府の総合的な情報力・交渉力が問われるのはこの時点からだ。

これで後藤氏の奪還にも失敗するような政府で、そのために貴重な人的資源としてのハサン中田氏のような橋渡しできる人物の申し出を断り続けるというのなら、それは政府として「国民保護のためにあらゆる手段を講じる」ことへの怠慢であり、実は初めから解放を求めるつもりなどないことの証左となるだろう。



その時に初めて、この一連の事案における安倍政権の目的が明らかになる。対テロ戦への本格参戦、関連法制整備のための理論(情緒的)武装、そして自衛隊海外派遣恒久法の成立と施行。名実ともに、有志国軍の一員となり、ISISとの対テロ戦に参戦し米英等各国との軍事的連携を深めること。

もしそんな政権の思惑のために後藤氏がスケープゴートにされようとしているのならば、心ある国民はこれをなんとしても阻止しなければならない。民意の総合力で、場合によってはISIS側に直接訴え、挑発ギリギリの嘲笑作戦を並行展開し、”私たちの対テロ戦”を展開するのだ。

日本政府の意図が不透明かつ、既に同胞を一人見殺しにしている事実を考えれば、「国民を守る」という責務のために政府が国家の利益を放棄するとは考えられない。私たち自身で、勝手に、できることを、各々でやるしかない。国家によるテロ・テロ集団によるテロ、あらゆるテロを抑止するために。