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2010/04/16

検証:在沖米海兵隊は「なくても困らない」存在なのかⅠ (Are the Okinawa Marines really "dispensable"? Part I)

在沖米海兵隊は「なくても困らない」と専門家(共同通信)

16日付の共同国際版(ジャパンタイムズが転載)によれば、在沖米海兵隊は「なくても困らない」("dispensable")存在らしい。大阪経済法科大学アジア研究所客員研究員の福好昌治氏Shoji Fukuyoshi)や、琉球大学法文学部の我部政明教授(Masaaki Gabeなど国内の専門家によれば、「在沖米海兵隊の兵力は大幅に削減されており、抑止力として疑問がある」そうだ。

"Analysts say force levels have been greatly reduced and question their role as a deterrent."

記事では、これまで海兵隊の普天間飛行場を「どこ」に移転するかについてが物議をかもしてきたが、「沖縄における米海兵隊の存在が必要不可欠であるかを合理的に問う議論は、これまで十分になされてこなかった」と指摘する。

"...but there has been little discussion regarding whether it is reasonable to assert that the presence of the marines in Okinawa is indispensable."

I. 日本側(専門家)の主張

前述の2名の専門家は、「沖縄に実際に配備されている海兵隊の数は公式発表よりもはるかに少なく、 そのような少ない数が果たして抑止として働きうるのか疑問が生じている」という。

たとえば、福好昌治氏は在沖海兵隊の配備は「空洞化している("hollowed out")」と主張する。

But military analyst Shoji Fukuyoshi has his doubts, saying the deployment of marines in Okinawa has been "hollowed out."


II. 米側(国防総省)の主張

米側は、日米安保の基本的性質として、海兵隊駐留の意義を主張する。

記事によれば、今年2月に来日した太平洋海兵隊のスタルダー司令官(Lt. Gen. Keith Stalder)は、駐日米大使館の催しの席で、現在配備中の在沖海兵隊は「潜在敵の抑止と撃退」という日米同盟の目的を支える「完璧なモデル」であると主張した。

...the current deployment of marines in Okinawa is "the perfect model" to support the bilateral alliance's objectives of "deterring, defending and defeating potential adversaries."

さらに同司令官は、海兵隊員たちには日本を守る為に命を投げ出す覚悟があるが、日本には合衆国を守る[条約上の]双務的義務はない、と明言したという。

"Our service members are prepared to risk their lives in defense of Japan. . . . Japan does not have a reciprocal obligation to defend the United States" under the treaty

そして、 司令官はさらにこう続けたという。

「合衆国が日本の防衛を保障することの対価として、日本は基地や、訓練の機会、そして最近においては財政支援を提供してくれている」

"In return for U.S. defense guarantees, Japan provides bases, opportunities to train and, in more recent times, financial support,"
我が国が長期に渡って行ってきた現在年間7,000億にも及ぶ駐留経費負担を考えれば、 「最近においては」という表現には大いなる語弊があるが、スタルダー司令官をその誤りを正すこともなく、「我々はこの非対称性("asymmetry")を受け入れている」と言い切ったそうだ。 共同の解釈では、日本政府にその現実を重く受け止めてもらいたいと示唆したことになっている。

Stalder said the United States "accepts this asymmetry" but hinted Washington wants Tokyo to always keep this in mind.

III. 在沖海兵隊の実態

記事では、米側は在沖海兵隊の総兵力は18,000に及ぶとしているが沖縄県の調べでは実数は12,000だということが分かっているとする。

The United States says the full strength of the marines in Okinawa is around 18,000, while the prefectural government says the number is actually about 12,000.


これは、一部事実だ。最近では日本政府(防衛省)も、その公式資料で沖縄県側の資料を引用し、平成20年9月末時点の実数は12,402人(資料1)だと認めている。しかし、米側は在沖海兵隊の総兵力は18,000にも及ぶと公表しているのだろうか。この点については後で詳しく述べるとする。

資料1:在沖海兵隊の総兵力(防衛省)



















さらに記事では、在沖海兵隊部隊は沖縄に常時駐留するわけではなくロテーションで県内に移動してくるだけだとする沖縄県側の主張が紹介されている。

Many ground units do not remain in Okinawa on a regular basis but rotate to the prefecture, local government officials said

前出の日本側の専門家、福好氏は「米側は沖縄に4つの歩兵大隊を駐留させていると主張するが、そのうちの 3大隊(2000人規模)は、2003年以降沖縄本島には駐留していない」とする。

Fukuyoshi said the U.S. side claims it has four infantry battalions in Okinawa, but three of them, with a total of around 2,000 members, have been away from the island since 2003.

IV. グアム移転協定はデタラメなのか

ここで、記事はこういう論を展開する。

在沖海兵隊のグアム移転協定(協定本文)では、在沖海兵隊員約8,000名がグアムに移転し、「理論上」("theoretically")県内には10,000名が残留するはずだと。

Under the current bilateral agreement on the realignment of U.S. forces in Japan, around 8,000 marines in Okinawa will be transferred to Guam and the remaining 10,000 will theoretically remain in the prefecture.

ちなみに実際の協定の条文は次のとおり。(防衛省資料にも“要約”あり:資料2

資料2:グアム移転協定の“要約”(防衛省)

“日本国政府は、第九条1の規定に従い、アメリカ合衆国政府に対し、第三海兵機動展開部隊の要員約八千人及びその家族約九千人の沖縄からグアムへ の移転(以下「移転」という。)のための費用の一部として、合衆国の二千八会計年度ドルで二十八億合衆国ドル(二、八〇〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)の額を限 度として資金の提供を行う。”

続いて記事は、沖縄は、米軍が保有する3つの機動展開部隊(Marine Expeditionary Forces:MEF) のうちの一つ、第三海兵隊機動展開部隊司令部(IIIMEF)が置かれている米本国を除く唯一の海兵隊の活動拠点であるとする。これは、前述の防衛省資料で米海兵隊の配置図(資料3)を見れば確認できる。

資料3:全世界における米海兵隊の配置図(防衛省)


The U.S. Marine Corps has three expeditionary forces and Okinawa is the only location outside of the U.S. mainland that hosts one of them, the 3rd Marine Expeditionary Force,

さらに記事は、海兵隊が在沖米軍兵力の六割近くを占めているとする。

Nearly 60 percent of U.S. service personnel stationed in Okinawa are marines.

前出の防衛省資料によれば、米国防総省発表の数字として在日米軍の総兵力35,965。内海兵隊の総兵力16,881となっている(資料4)。実は、防衛資料でわかるのはここまで。資料のどこを読んでも、在沖米軍の総兵力がわからない

資料4:在日米軍の総兵力と在日海兵隊の総兵力(防衛省)


実は外務省も、最近の資料ではこれを明かしていないので、では沖縄県の資料に当たってみる ことにする。21,277という数字が出てくる(資料5)。

資料5:在沖米軍の総兵力(沖縄県)





































さらに、防衛省資料(但し出所は沖縄県)から在沖海兵隊の総兵力12,402だとわかっている。

出所を辿ってみて改めて分かるのは、沖縄県側のも防衛省側のも、結局は米側の公表資料に基づいてることが分かる。つまり12,402が米側公表数値ということだ。18,000ではない。

以下まとめてみる。


V. 共同の数値「18,000」の検証


〔A〕在日米軍兵力の実態(複数ソース)

  1. 在日米軍総兵力 35,965 (米公表、出所:防衛省)
  2. 在日海兵隊兵力 16,881 (米公表、出所:防衛省)
  3. 在沖米軍総兵力 22,720 (沖縄県公表、出所:米国防省)
  4. 在沖海兵隊兵力 12,402  (沖縄県公表、出所:米国防省)

前述のように記事は、「海兵隊が在沖米軍兵力の六割近くを占めている」とこれを事実として主張している。在沖米軍総兵力については、米側には公式に発表されていないのだから、沖縄県側の公表数値に頼るしかない。その場合は、21,277の六割が在沖海兵隊の総兵力だということになる。単純に計算すると12,766とでる。グアム協定に則り、ここから8,000を引くと4,766となる。理論上の計算でも10,000人にはならない。

では、米側の公式発表を簡単に見てみよう。誰でも見れる在日米軍公式サイトである。

ここで「About U.S. Forces Japan」を見ると、まず在日米軍総兵力は約36,000となっていることがわかる(Headquartersの見出し部分)。陸軍は約2,000という数字が出てくる(U.S. Army, Japanの見出し部分)、海兵隊は約16,000(III Marine Expeditionary Force見出し部分)、海軍は6,000(Commander, Naval Forces Japan見出し部分)、空軍は1,3000(U.S. Air Forces Japanの見出し部分。※ただし文民含むと記載あり)とある。これらの数字も同様にまとめてみよう。


〔B〕在日米軍兵力の実態(在日米軍サイト公表)

*は防衛省出所の米公表数値(**は外務省出所の米公表数値→資料6

  1. 在日米軍総兵力 約36,000 *35,965 **34,500
  2. 在日海兵隊兵 力 約16,000 *16,881 **15,200
  3. 在日米陸軍兵力 約  2,000 * 2,594 **  2,600
  4. 在日米海軍兵力 約  6,000 * 3,779 **  4,000
  5. 在日米空軍兵力 約13,000 *12,711 ** 12,700

    *防衛省公表数値の情報源が判明した。
    国防総省直属情報機関の2009年9月30日時点の情報だった。

    出典:米国防総省情報作戦報告本部(Directorate for Information Operations and Reports, Washington Headquarter Services, DIOR),  "Active Duty Military Personnel Strengths by Regional Area and by Country", September 30, 2009.
資料6:在日米軍の兵力内訳(外務省)




















海軍兵力についての記載には疑問の余地があるが、これも文民含めての数値とすれば許容範囲内の誤差だろう。総兵力はいずれも約36,000で間違いはない。そして、最も重要なのは、海兵隊兵力の数値も許容範囲の誤差で済んでいるということ。

つまり、共同が主張する18,000という数に論理的根拠はない。

〔A〕のまとめに基づけば、正確な数字としては、在沖海兵隊兵力12,402で、グアム協定に基づくとここから約8,000(米大平洋軍司令部資料によると8,522)が移転することになる。沖縄県の数字に則れば、残存兵力は3,880ということになる。ではここから逆算して、在沖海兵隊兵力12,402は在沖米軍総兵力21,277の何パーセントに当たるかを割り出してみると、58%と出る。これを共同は「約六割」と形容していたわけだ。

つまり、共同は自らが前提としている18,000を前提にこの割合を出していない。いつの、どこの情報に基づいているかを明記しないで、実際は日本側の数値(しかも本当は米側公表数値)に頼りながら、その事実を曖昧にした記述のまま主張を通そうとするから、こういうことになる。

記事に戻ってみる。

VI. 在沖海兵隊の必要性

記事では一部の安全保障の専門家は、次の理由で海兵隊は沖縄に駐留すべきだと主張する。
  •  陸上部隊のプレゼンス維持のため
  • 半島有事の際の文民救済のため
  • アジアに於ける対テロ作戦遂行のため
  • 災害救援活動のため

Security experts say marine units should stay in Okinawa for purposes such as providing ground force presence, rescuing civilians in an emergency on the Korean Peninsula, antiterrorism operations in Asia and disaster relief activities.

それでも共同は、前出の我部教授は次のように主張するとして、記事をこう締めくくる。

「米海軍や空軍は抑止力となるかもしれないが、海兵隊を維持する意味は見当たらない」

"The U.S. Navy and Air Force in Japan could be seen as a deterrent. But I don't see meaning in keeping the marines."

VII. 中間総括


今回の検証プロセスを通じて実数が把握できたところで、グアム移転協定の実施後は約4,000の海兵隊兵力が沖縄に残存することがわかった。共同は記事冒頭で、「沖縄における米海兵隊の存在が必要不可欠であるかを合理的に問う議論は、これまで十分になされてこなかった」と指摘したが、では実際にこの記事で合理的にこれを突き詰めたかというと「十分ではない」としか評価できない。

米海兵隊の存在意義を合理的に問うのであれば、周辺の情勢、変わりゆく国際的な「脅威」の実態を念頭に、その中で米海兵隊がどのような役割を果たし、それが日本ひいては東アジア地域の平和と安定にどのように貢献するのかという視点を持ち、客観的かつ総合的に、その有用性を判断しなければならないのではないのか。

「日米の深化」を謳い、同盟締結50周年を迎えた2010年の今年、日本が対等な国家として為さなければならないのは、耳に心地よいだけの美辞麗句を宣言することではなく、同盟国としていかに在日米軍の存在意義を再評価し、その再評価に則った新たな協議プロセスを開始することではないのか。

これを大衆に代わって監視する役割を持つマスコミも、こうした視点で同盟関係を見つめ、国内で自由闊達な議論が行われるよう努めるべきではないのか。今回の共同の問題提起は、的を射ていたが、自ら提起した問題に答えるほどの結論は導かれていない。そして、そこまで至る過程も杜撰で論理矛盾していた。

次回の「Ⅱ」では、上記の視点で在日海兵隊の役割を見つめ直し、「海兵隊を維持する意味」等という矮小な問いかけではなく、その中で再構築される日米両部隊の国際的な役割を念頭に、これまでずっと温めていた構想を展開する。

続く

(2010/04/17 17:00校了)

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参考文献:

外務省

グアム移転協定全文
『第三海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転の実施に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定』

第19回外務省政策会議提出資料,平成22年2月24日,p1.
『日米同盟の深化』

第19回外務省政策会議提出資料,平成22年2月24日,p5.
『日米安保体制:概要と現状』

防衛省

第7回防衛省政策会議提出資料,平成22年2月9日, p15, 23.
『在日米軍及び海兵隊の意義・役割について』

沖縄県

知事公室基地対策課
「基地の概況」『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)平成21年3月, p2, 3.

在日米軍

公式サイト, About U.S. Forces Japan
 Official Military Website U.S. Forces Japan



原典記事:

Kyodo News International syndicated by Japan Times Online
Okinawa marines said dispensable | The Japan Times Online


Written by Etranger

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