Wikipedia項目としての侵略犯罪に関するローマ規程の改正条項
Wikipedia掲載前の部分的自己コピー(※適宜一部更新あり)
侵略犯罪(しんりゃくはんざい、Crime of Aggression)は、国際刑事裁判所規程に定められる国際刑事裁判所の管轄犯罪の一つである。2010年6月11日、カンパラで開かれたローマ規程再検討会議において、その定義及び管轄権行使の手続きに関する改正決議(RC/Res.6)が参加国111カ国のコンセンサスにより採択された。但し、改正は2012年5月現在発効していない。
目次[非表示] |
定義 [編集]
国際刑事裁判所規程(以下、規程)における定義は、次の通りである。
抄訳 [編集]
第8条の2 侵略犯罪
- 一、この規程の適用上、「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。
- 二、第1項の適用上、「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう。以下のいかなる行為も、宣戦布告に関わりなく、1974年12月14日の国際連合総会決議3314(XXIX)に一致して、侵略の行為とみなすものとする。
- a. 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、若しくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合
- b. 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用
- c. 一国の軍隊による他国の港または沿岸の封鎖
- d. 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍または空軍若しくは海兵隊または航空隊への攻撃
- e. 受け入れ国との合意で他国の領域内にある一国の軍隊の、当該合意に規定されている条件に反した使用、または当該合意の終了後のかかる領域における当該軍隊の駐留の延長
- f. 他国の裁量の下におかれた領域を、その他国が第三国への侵略行為の準備のために使用することを許す国の行為
- g. 他国に対する上記載行為に相当する重大な武力行為を実行する武装した集団、団体、不正規兵または傭兵の国による若しくは国のための派遣、またはその点に関する国の実質的関与
原文 [編集]
Article 8bis Crime of Aggression
- 1. For the purpose of this Statute, “crime of aggression” means the planning, preparation, initiation or execution, by a person in a position effectively to exercise control over or to direct the political or military action of a State, of an act of aggression which, by its character, gravity and scale, constitutes a manifest violation of the Charter of the United Nations.
- 2. For the purpose of paragraph 1, “act of aggression” means the use of armed force by a State against the sovereignty, territorial integrity or political independence of another State, or in any other manner inconsistent with the Charter of the United Nations. Any of the following acts, regardless of a declaration of war, shall, in accordance with United Nations General Assembly resolution 3314 (XXIX) of 14 December 1974, qualify as an act of aggression:
- (a) The invasion or attack by the armed forces of a State of the territory of another State, or any military occupation, however temporary, resulting from such invasion or attack, or any annexation by the use of force of the territory of another State or part thereof;
- (b) Bombardment by the armed forces of a State against the territory of another State or the use of any weapons by a State against the territory of another State;
- (c) The blockade of the ports or coasts of a State by the armed forces of another State;
- (d) An attack by the armed forces of a State on the land, sea or air forces, or marine and air fleets of another State;
- (e) The use of armed forces of one State which are within the territory of another State with the agreement of the receiving State, in contravention of the conditions provided for in the agreement or any extension of their presence in such territory beyond the termination of the agreement;
- (f) The action of a State in allowing its territory, which it has placed at the disposal of another State, to be used by that other State for perpetrating an act of aggression against a third State;
- (g) The sending by or on behalf of a State of armed bands, groups, irregulars or mercenaries, which carry out acts of armed force against another State of such gravity as to amount to the acts listed above, or its substantial involvement therein.
管轄権 [編集]
認定 [編集]
規程の適用上、侵略行為の認定(決定)は、国際刑事裁判所又は国際連合安全保障理事会の決定により行うことができるが、国際刑事裁判所は、裁判所以外の機関による「侵略行為」の決定に影響されない。(第15条の2)
行使 [編集]
規程の適用上、国際刑事裁判所は次の3つの方法で「侵略犯罪」に関する管轄権を行使できる。(第15条の2及び3)
- 自発的行使: 予審裁判部の許可がある前提での検察官の職権による捜査の開始(第15条の2)
- 国の自発的付託による行使: 第13条(a)および(c)項に従った行使(第15条の2)
- 安全保障理事会の付託による行使: 13条(b)項に従った行使(第15条の3)
発効 [編集]
ローマ規程の適用上、規程の改正には30の締約国による個々の改正条項への批准が必要となる。侵略犯罪については、再検討会議において以下の発効要件が合意された。(第15条の2及び3共通)
- 30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後
- 締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うこと
締約国 [編集]
2012年5月14日現在、ローマ規程の改正条項に批准した締約国は1カ国である。2012年5月8日、リヒテンシュタインが「侵略犯罪に関する国際刑事裁判所ローマ規程の改正」に批准し、初の締約国となった。[1] [2].
締約国 | 署名 | 批准又は加入 | 発効 |
---|---|---|---|
リヒテンシュタイン | 2010年6月11日 | 2012年5月8日 | 2013年5月9日 |
関連条項 [編集]
第13条 管轄権の行使
- (a) 締約国が次条の規定に従い、これらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察管に付託する場合
- (b) 国際連合憲章第七章の規定に基づいて行動する安全保障理事会がこれらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察管に付託する場合
- (c) 検察管が第十五条の規定に従いこれらの犯罪に関する捜査に着手した場合
第15条の2 侵略犯罪についての管轄権の行使(国の自発的付託)
- 裁判所は、この条の規定に従うことを条件として、第13条(a)および(c)項に従って侵略犯罪についての管轄権を行使することができる。
- 裁判所は、侵略犯罪に関する管轄権については、30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後にのみ行使することができる。
- 裁判所は、規程の改正の採択のために必要とされるのと同じ締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うことを条件として、本条に従って侵略犯罪についての管轄権を行使するものとする。
- 裁判所は、締約国が、裁判所書記に対して行う宣言によりかかる管轄権を受諾しないことを事前に宣言していない限り、第12条に従って、締約国が行った侵略行為から生じる、侵略犯罪についての管轄権を行使することができる。かかる宣言の撤回は、いつでも効力を有することができ、また3年以内に当事国により検討されるものとする。
- 本規程の当事国でない国に関しては、裁判所は、その国の国民またはその領域において行われた侵略犯罪についてその管轄権を行使しないものとする。
- 検察官が、侵略犯罪に関する捜査を進める合理的な基礎があると結論する場合には、まず最初に安全保障理事会が関係国により行われた侵略行為について決定を下したか否かを確かめるものとする。検察官は、あらゆる関連情報および文書を含む、裁判所における事態を、国際連合事務総長に通知するものとする。
- 安全保障理事会がかかる決定を下した場合には、検察官は侵略犯罪に関する捜査を進めることができる。
- 通報の日から6か月以内にかかる決定が下されない場合には、検察官は、予審裁判部が第15条に規定する手続に従って侵略犯罪に関する捜査の開始を許可したこと、および安全保障理事会が第16条に従って別段の決定をしていないことを条件として、侵略犯罪に関する捜査を進めることができる。
- 裁判所以外の機関による侵略行為の決定は、本規程の下での裁判所独自の認定に影響を及ぼすものではない。
- 本条は、第5条に言及されている他の罪に関する管轄権の行使に関する規定に影響を及ぼすものではない。
第15条の3 侵略犯罪についての管轄権の行使(安全保障理事会の付託)
- 裁判所は、この条の規定に従うことを条件として、第13条(b)項に従って侵略犯罪についての管轄権を行使することができる。
- 裁判所は、侵略犯罪に関する管轄権については、30の締約国が改正条項の批准または受諾を行った1年後にのみ行使することができる。
- 裁判所は、規程の改正の採択のために必要とされるのと同じ締約国の多数により2017年1月1日以降に行われる決定に従うことを条件として、本条に従って侵略犯罪についての管轄権を行使するものとする。
- 裁判所以外の機関による侵略行為の決定は、本規程の下での裁判所独自の認定に影響を及ぼすものではない。
- 本条は、第5条に言及されている他の罪に関する管轄権の行使に関する規定に影響を及ぼすものではない。
各国の立場 [編集]
日本 [編集]
日本政府は2010年の再検討会議において、次の3つの理由から規程改正の採択のコンセンサスには参加せず、但しそれを阻止することも行わない対応をとった。
- 現行ローマ規程の改正手続との関係で疑義が残ること;
- 締約国間及び締約国と非締約国間の法的関係を複雑なものとすること;
- 非締約国の侵略行為による侵略犯罪を必要以上に裁判所の管轄権行使の条件から外していること.
- 採択前: 「きわめて不承不承ながら、各国代表団が本改正案を現行案のまま支持するというのであれば、日本政府はコンセンサスを妨げることは致しません。(... it is with a heavy heart that I declare that, if all the other delegations are prepared to support the proposed draft resolution as it stands, Japan will not stand in the way of a consensus.)
- 採択後:「政府代表団の団長として、この岐路に置いて申し述べておかなければならないことがあります。それは今後の我が国のICCへの協力は、我が国が疑義を唱える改正手続に関する問題の解決にかかっているということであります。(As the head of my Delegation, appointed to represent Japan in this Review Conference, it is my duty to register, at this juncture, that the future cooperation of Japan with the ICC will hinge upon whether the ASP can deliver on this with your cooperation. )」
関連項目 [編集]
参考文献 [編集]
- "RC/Res.6" 侵略犯罪(事前発表版 2010年6月28日 18:00) - 国連広報センター
- http://www2.icc-cpi.int/iccdocs/asp_docs/Resolutions/RC-Res.6-ENG.pdf "RC/Res.6 The crime of aggression"(採択された改正条項) - 国際刑事裁判所締約国会議事務局
- http://www.mofa.go.jp/policy/i_crime/icc/pdfs/before_adoption_1006.pdf "Statement by Japan (11 June 2010) (before adoption)" (小松政府代表による投票理由説明その1(英語), 2010年6月11日) - 外務省
- http://www.mofa.go.jp/policy/i_crime/icc/pdfs/after_adoption_1006.pdf "Statement by Japan (11 June 2010) (after adoption)" (小松政府代表による投票理由説明その2(英語), 2010年6月11日) - 外務省
外部リンク [編集]
- 国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程検討会議(結果の概要)平成22年6月11日 - 外務省
- 国際刑事裁判所に関するローマ規程](条約全文) - 外務省
- http://www2.icc-cpi.int/Menus/ASP/ReviewConference/ Review Conference(締約国会議「再検討会議」公式ページ)- 国際刑事裁判所締約国会議事務局
- http://www2.icc-cpi.int/nr/exeres/dea630a9-e656-4870-a2a8-1ebfa35857cb.htm Crime of Aggression(締約国会議「侵略犯罪」公式ページ)- 国際刑事裁判所締約国会議事務局
0 件のコメント:
コメントを投稿