3/30(水) リビアへ武力介入 市民を保護するために
ゲスト:勝見貴弘(世界連邦運動本部執行理事)
司 会:土井香苗(ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京ディレクター)
緊迫した局面を迎えているリビア情勢。
反政府勢力を抑えるために
自国民に銃を向けるカダフィ政権に対し
国際社会が武力介入に打って出ました。
「市民を保護するため」の武力介入は
果たして成功するのか?
国連問題のエキスパートに話を聞きます。
※本日のテーマ「市民を保護する責任」などが
詳しく書いてある、勝見氏総合監修の本は、
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■全容
①リビア争乱はどうやって起きたのか
番組では、まずリビアとはどういう国なのか、いま何が起きているかを簡単におさらいしました。そして、リビアでどうして大規模な政府デモが起きたのか。その本当のきっかけは何だったのか。司会の土井香苗さんがわかりやすく説明してくれました。詳しくは、放送の直前に土井さん自身が書かれたブログの記事をツイートしていました。
この2年前の出来事を発端に、今年2月になって燃え始めた民衆の怒りは、2月17日に頂点に達します。5つの都市でほぼ同時に起きた「怒りの日」デモです。しかし、その後、リビア政府側は暴動鎮圧のためついに軍隊を出動させ、空爆まで行いはじめました。
②国際社会の行動
「怒りの日」から2週間も経たない2月26日、国際社会は行動を起こします。国連安保理を招集し、対リビア制裁決議第一弾を採択したのです。それが、国連安保理決議1970です。
この決議により、リビアには様々な非軍事的制裁が課せられました。その中に、国際刑事裁判所ICCへの捜査・訴追の付託が含まれました。日本を含め、国際社会はこの決議を支持しました。
日本はこの決議を受けて、制裁内容のいくつかを実施しています。
しかし、リビアはこうした国際社会の結束した批難を受け容れません。それどころか、反政府活動への懲罰的軍事行動をエスカレートさせ、ついに空爆をはじめます。多くの罪のない市民が犠牲になり、国外国境付近には難民があふれ出て、「人道的危機」といえる状況に近づいてきました。
③国際社会の更なる行動
国際社会はここで再び、決議1970から2週間弱でさらなる行動を起こします。3月17日に採択された、リビア政府軍に対する武力の行使を認める、国連安保理決議1973です。
これは、画期的な出来事でした。
なぜなら、かつて人道的危機という状況が誰の目にも明らかなときであっても、これほど迅速に国際社会が歩を揃えて取り組み、行動に及んだことはなかったからです。
中でも歴史的な、パラダイムシフトといえるのが、暗示的に今回の行動の行動原理となった「保護する責任」原則の適用でした。
④なぜ画期的なのか
「保護する責任」原則(略称:R2P)は、2000年にカナダ政府が主導した国際委員会が起草した新たな概念で、2005年には国連首脳会合の成果文書として、2006年には安保理で、武力紛争における文民の保護に関する決議1674で、全快一致で採択されました。
にも関わらず、この原則は誕生して10年が経っても実際に適用されることはありませんでした。そもそも、この理念はルワンダの大虐殺(1994)やスレブレニツァの虐殺(1995)などの歴史的大事件で、国連を含む国際社会が有効かつ迅速に行動しなかったことの反省から生まれた概念でした。
にもかかわらず、その後も世界では、「人道的危機」と呼べる状況が、パレスチナのガザ地区、スーダンのダルフール、コートジボワール世界各地で起き続けました。国際社会は、R2Pを発動しなかったのです。保護する責任を果たしてこなかったのです。
それがどうでしょう。リビア争乱については、「人道的危機」が発生したと思われる時期から1カ月ほどで、多国籍軍が編成されて「文民を保護するためのみのための」武力行使が実行に移されたのです。なぜでしょうか?
これまで「保護する原則」が適用されなかった最大の理由は、それ自体に内包される国家主権への優位性にありました。具体的には、国家主権の主たるものとされてきた「内政不干渉の原則」。これに、「保護する原則」は優先するということが、2006年の段階で安保理の総意として採択されたのです。
これが何を意味するかというと、安保理の中で国内に人道上の問題を抱える中国やロシアにとって、これまで伝家の宝刀のように使ってきた「内政不干渉」の原則が、これからは容易に適用できなくなるのです。
だから、R2Pの原則が採用されてから数々の人道的危機が世界各地で起きても、その原則が自国にも適用される恐れから、またそうした状況になったときに「拒否権」を発動するという屈辱的な状況を回避するために、R2Pが安保理の決定として適用されることはなかったのです。(拒否権に関する参考文献 - 国立国会図書館)
そして、中露ほか3カ国は棄権に回ったのです。そうせざるを得ませんでした。国際社会の関心はあまりにも高く、そして一様に「行動」を起こすことを望み、それはこれまでのような非軍事制裁ではもはたもたないという見解が支配的になっていたからです。
こうして渋々も、安保理では歴史的な「保護する責任」決議1973が採択され、その目的はあくまで「文民の保護」のための行動を起こすこと。そのための飛行禁止区域の設定であり、その強制のための武力行使容認でした。また「文民の保護」を最優先にするため、人道支援活動を阻害しないこともリビア政府をはじめ、武力行使に参加する各国に強制しました。まさに、「保護する責任」の原則に沿ったかたちの行動を起こしたのです。
⑤原則は本当に守られているのか
「保護する責任」に基づいて行動する場合、とくに軍事行動を起こす場合には、その正当化要件があります。
この6つの要件を満たさなければ、軍事行動は起こしてはならないことになっているのです。ところが、今回の行動がこれら6要件全てを満たしているとはいえません。
5. 合理的見通し(Reasonable Prospect)
6. 最後の手段 (Last Resort)
この中で満たしているといえるのは、1,2,3,4くらいで、5,6についてはその根拠となるものが示されていません。たとえば、「合理的見通し」というのは、行動を起こすことで事態を悪化させない合理的見通しがあることを検証したか否かを指ます。「最後の手段」は、まさにこれまで「交渉、停戦監視、仲介など」あらゆる外交的努力が全て尽くされたという道筋がなければなりません。
ところが、今回国際社会が起こした行動というのは、どちらかといえば行き当たりばったりで、早い行動ではありましたが、「拙速」だったという批判も免れないものです。そのため、「間違い」が生じる可能性があるため、安保理は決議1970で、リビア以外の国連の作戦に参加する国々に対しても、ICCの管轄権を受け容れるか、自国の管轄権に服しなさいという要請も行ったのです。いわば、決議1970は1973での武力行使で間違いが起きた場合に備えての予防線だったのです。
⑦それでも歓迎されるべきパラダイムシフト
国際社会は、こうした欠点がありながらも、今回の決議が執行されることを強く望んでいます。Twitter上での議論でも、 #r2p というタグで検索すると、さまざまなソースを持ち寄って賛否両論を闘わせつつも、今回の「保護する責任」原則の初適用を歓迎する意見が圧倒的に多いようです。
放送では、国際人権団体の支部のトップを務める土井さんと、世界連邦運動という、恒久世界平和達成のための運動の役員を務める私が、この点について強く同意しました。完全ではないにしても、暗示的であっても、間違いなくその理念に基づいて、その原則に則った形で、具体的な行動が起こされている。それが、無辜な人の悲劇を早く終わらせ、争乱に荒れる国に平和をもたらすための行動であることを、誰もが実感している。
たとえそれが軍事を伴う行動であっても、国連憲章が禁じる武力行使であっても、イラク戦争のときのように用意周到なシナリオに則らずとも、国際社会の総意をこんなにも早くまとめ、こんなにも早く行動することができた。そして、我が国日本もこれを支持・支援している。
⑧日本が果たせる役割には何があるか
これを、平和立国日本の私たちは歓迎すべきだという思いを、放送の最後で述べました。そしてもし仮に、我が国日本が今後、こうした行動に関わる決意と覚悟があるならば、憲法九条の範囲内で、国民一人一人が行える貢献があるとして、国連緊急平和部隊(UNEPS)を短く紹介しました。
また実存しない部隊ですが、だからこそ、日本が作れる。日本が先頭に立って作れる。そう説いて、放送を終わりました。
ほかにも、HRTF(人道救援任務部隊)という、今回の大震災のような大規模自然災害に特化した、日米“共同”部隊の創設提案も紹介しようと思いましたが、時間がなく、諦めるしかありませんでした。
UNEPSやHRTFについての詳細は、私の議員秘書時代の最後の仕事で総合監修を担当した書籍、犬塚直史著『脱主権国家への挑戦~支えあう平和を求めて~』にて詳しく解説しています。
以上、放送では順序立てて話せなかったことまでここでは綺麗にまとめてしまっていますが、放送の全容はこのようなものでした。
ご精読感謝いたします。
(了)