一縷の希望は政治主導により紡がれた
はじめに
普天間返還問題については、外交政策を担当する現役秘書時代から取り組んできた一大政策テーマだった。「県外移設」を訴える鳩山政権では首相官邸の政府案の1つを提案するブレーンも務めた。当時から、鳩山総理の残した「遺産」はいつか実を結ぶと一縷の希望を、諦めない沖縄の人々とともに持ち続けてきた。その希望が、リーマンショックに始まる米国の国内事情の激変により遂に紡がれた。日本が遂に、政治主導で日米外交の主導権を握る政策を打ち出したのである。以下は、そうした歴史的功績を認め深い視点で論じない国内メディアの視野狭窄への批判とともに今年に入ってからの報道から得られた洞察をまとめあげたツイート録をブログ用に再編したものである。
きっかけ:「移転」と「ロテーション」の予算の仕分け
若い市民のための新パンセ(2012年01号)
(12/02/10)梅田正己(高文研顧問)
“No decisions will be announced until the details of the way forward are agreed upon by both countries,” Little added. “Therefore, right now, it's premature to discuss troop numbers or specific locations associated with the relocation of Marines from Okinawa.”
「両国により今後の協議の進め方が合意されるまで決定事項の発表は行わない。したがって、現時点において、沖縄から移転する海兵隊の移転人数及び移転先について論じるのは時期尚早である」
━国防総省リトル報道官のコメント
米国防総省ニュースリリース(2012年2月8日)より抜粋翻訳
米側が共同発表後にいち早くこのようなコメントを発表したのは日本側によるリークに歯止めをかけるためだったのだろうと合点がいく。ただ、この高文研顧問・梅田正己氏のブログの内容で少し違和感を持ったのは、 移転とロテーションとの間では予算の扱いが違うのではないかという点だ。
移転は再編計画に基づいて1度行われるものだが、ロテーションは数回に分けて行われるものだろう。
まず1点目は、ロテーションは複数回になるばかりでなく、文字通り何度も巡回する。固定の予算を付けられる訳がない。2点目は、移転は再編計画に基づいて行われるが、ロテーションは単に配置計画のみでなく軍事作戦であるという点。これに日本政府が拠出するのは道理が合わない。
疑問のポイント
①ロテーションは複数回に及ぶ→1回限りの予算は付けられない
②ロテーションは軍事作戦→再編計画と関係なく継続される
移転費用の負担割合は増えない筈
当初から日本の分担割合は減りはしても増えはしないと踏んでいた。
増えるとしたら、そこにはまたカラクリがあると見ていい。
前回の負担割合も、外務・防衛官僚によって水増しされたものだった。
これを公正なものに戻すのも再協議の目的の筈だ。
マスコミが“大々的”には報じない「事実」
大々的には報じられていないが、今回の再協議のきっかけを玄葉外務大臣が自ら昨年12月のうちに野田総理に進言していたという「事実」を私は嬉しくも思い、重要視もしている。
今回の交渉は、一般には米側から持ちかけたことになっているが、逆だった。
日本がイニシアティブをとったのだ。
①再編の仕切り直しは日本主導だった
官僚と玄葉外相のどちらが機先を制したのかは定かではないが、琉球新報や毎日新聞が同11日に総括した限りでは、米国の経済状況、予算凍結の動きを察知して政治主導で物事が動いたように見える。
琉球新報
「その方向でいい」。昨年12月19日のクリントン米国務長官との会談を控えた玄葉外相は野田佳彦首相にパッケージの切り離しを進言。首相からゴーサインが出たことで、クリントン長官と「お互い本格的な議論をしよう」(玄葉氏)と解決に向け協力を確認した。
(中略)
玄葉氏が事務方にパッケージ見直しの検討を指示したのは、仲井真弘多知事と会談した11年10月。
琉球新報(2011年2月11日)より抜粋
毎日新聞
「パッケージを外そうと思います」。玄葉光一郎外相は昨年12月14日、5日後のクリントン米国務長官との会談をにらみ、野田佳彦首相に「切り離し」の具体案を伝えた。「その方向で進めてください」。首相の了承を得た玄葉氏は、日米外相会談でクリントン氏に「互いの困難を克服する方策を考えましょう」と協議開始を提案し、クリントン氏も受諾した。
(中略)
転機は、オバマ米大統領が新国防戦略を打ち出した昨年11月。外務、国務両省は「新戦略に沿った在日米軍再編計画の見直しもあり得る」とみて、事務レベルで検討を開始した。
毎日新聞(2012年2月10日)より抜粋
②仕切り直しは政治主導で行われた
おそらく9日付けの時事で最初に明かされたこの「日本主導」の事実は、大手各社により外務・防衛の主導権争いの構図へと摺り返られた。だが重要なのは、膠着状態を脱するイニシアティブを「日本政府」がとったこと、これが政治主導で行われたことである。
時事通信
対米交渉は、野田佳彦首相から「一任」を受けた玄葉光一郎外相ら外務省主導で進められた。
(中略)
昨年12月19日、ワシントンで行われた日米外相会談で、玄葉氏はクリントン国務長官に、普天間移設と在沖縄海兵隊のグアム移転が両立する方策を模索すべきだと提案。クリントン氏も賛同した。
(中略)
外相就任後、沖縄を訪問した玄葉氏に対し、仲井真弘多知事は5施設・区域の早期返還実現を要請。日米外相会談に先立ち、玄葉氏が首相にパッケージ分離案を説明すると、首相は「再編問題の細かいことは任せる」と応じた。
時事通信(2012年2月9日)より抜粋
再び政治主導で日本外交を動かした「功績」
政治主導の外交を誇るべき
メディアは、日本政府にこの栄誉を素直に認めようとしない。
多くの人は毎日や時事の「日本主導」の事実の報道をさらりと読み流してしまっているだろう。そう読めるように書かれているからだ。だが、機先を制して政治主導で日本外交が動いたということは、本来誇るべき事実なのだ。否、単に「誇るべき事実」ではない。
自公政権ががんじがらめにしてしまった移設・移転の魔のパッケージの「切り離し」という打開案を構想し、実行した「民主党政権の功績」といってもいい。
少なくとも、沖縄県の人々には(この事実が正しく伝われば)そう捉えられる筈だ。
米側に起因する再交渉、機先を制した日本側
昨年12月の「提言」 でもまとめた通り、「普天間固定化」は米側の望む所ではない。それはパッケージを切り離しても同じことだ。米側はいま、議会を説得させられるアジア太平洋地域の兵力態勢と予算分担割合を策定するのに死に物狂いである。
10日付けの沖縄タイムスがまとめたように、米側には議会の予算凍結を解除するために解消しなければならない2つの大きな課題ある。 これは、沖縄メディア以外どこも報じてこなかったもので、私がこれまで一貫してメディアの落ち度として指摘してきたものだ。
国防権限法に定める米軍再編に関する資金拠出の要件:
①海兵隊総司令官が太平洋の最適な米軍配置計画を議会に提出する
②海兵隊が提示する計画や独立委員会による太平洋の米軍の体制に関する研究報告を踏まえ、国防長官が6月までに議会に見解を報告する
沖縄タイムス(2012年2月10日)より抜粋・再編
この2点の条件はグアム移転に係る一切の予算が削除された2012年米国防権限法に付随する米両院協議会報告書という文書の中で詳述されている。その抜粋箇所がこれである。
政権を負のイメージに固定するメディアの作為
私の知る限り、この5つの条件を国内メディアが全て報じたことは、沖縄メディアを含めて一度もない。なぜ沖縄メディアが報じなかったのか、それが視野狭窄によるものかは定かではない。だが大手メディアが報じないことには私は作為を感じていた。メディアが使う手法には、いくつかある。
手法①:ありのままを伝えない
大手メディアはこの5つの条件のうち1つ(普天間移設の「具体的進展」に係る項目)のみを取り上げ、後の条件を完全に黙殺。一切報道せず、日本側の責任で米側が痺れを切らし予算凍結が行われたかのような印象操作を行った。
だが事実は違った。米側の事情がより多分にあったのだ。
以上のような理由で、米側は普天間移設どうこうのよりも、①最善の兵力態勢を割り出し②予算負担割合を減らした合理化されたマスタープランを議会に提出しなければならない。
この2点が米側の最優先事項なのである。
よって、現在行われている協議もこのことを中心に進められていると私は見る。
米側にとっての最優先考慮事項
①最善の兵力態勢の割り出し
②合理化されたマスタープランの議会への提出
手法②:本質を政局に摩り替える
国内メディアはこうした本質を全く捉えずに、日本が今回の「仕切り直しを実質主導した功績」を「外務・防衛の主導権争い」に置き換え、日本が提示した「パッケージ切り離し」を「普天間の固定化」に置き換えて、野田政権に対する負のイメージの正に「固定化」を図っているのである。
最近の報道に見られる本質すり替えのパターン
①「仕切り直しを実質主導した功績」→「外務・防衛の主導権争い」→政治的無関心の誘引
②「パッケージ切り離し」→「普天間の固定化」→不安・不信の助長
手法③:入り口情報の占有
現在行われている協議の実際の内容は、殆ど日本国内のメディアを通してしか漏れ伝わってこない。英語での発信すら、日本のメディアが総力を挙げて海外他社に先駆けて行われている。なので情報は一遍通りにしかないように錯覚してしまう。
だが、国外メディアが報じない(論じない)からこそ「穴」がある。
メディアの「穴」に斬り込む
そのメディアの報じない穴は、米側の公式文書、とくに議会文書などの絶対的な記録などに現れる。公聴会の証言などを端折って報道される際も、議会の委員会の記録を辿れば簡単に検証できる。私の「仕切りなおし」案は、正にその集大成であった。
個人の力量でメディアを超えることは可能なのだ。
終わりに
私は、今後の「仕切り直し」再協議の推移も、注意深く見守っていくつもりである。
かつて与党内にあって首相官邸に政策提言まで行って関与してきた身として、今後も在日米軍再編問題は他の問題と並んでライフワークとなってゆくだろう。それが政治に関ったことのある人間の責務だと思っている。
以上、ここまでのご精読感謝いたします。
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