「ごく最近の例が野田佳彦首相や玄葉光一郎外相の米軍普天間飛行場移設問題への対応だ。玄葉外相は移設先を『最低でも県外』とした鳩山由紀夫元首相の方針を『誤りだった』と断言した。『何を今ごろ』と思うほど、当然の発言である。」 (2011年10月の『産経抄』より)
今日ツイートされたので、最近の記事かと思ったていたが、違った。
だが、ハッキリ言う。鳩山総理の方針は誤りではない。
米側に日本の「意思」をハッキリと示したからだ。
何かと鳩山氏に批判的な玄葉外相は、先日のNHKの番組でも、
苦笑を交えながら、鳩山政権下では「ひじょうに迷走した」と言い切った。
「それで結局、ひじょうに迷走したわけですよね、かつて。」━玄葉外相
このとおり、鳩山総理を批判する姿勢は首尾一貫している。
党の外交政策担当の最高顧問となった今もその姿勢を変えないのは立派とすらいえる。
しかしでは、なぜ党は、普天間問題を「迷走」させた張本人といわれる人を、
いま正に普天間問題の見直しに入っている時に、外交政策担当として迎えたのか。
単なるお飾り名誉職なのか?
事の本質として問題を「迷走」させた本人を党の要職に据えることは、
米側にどんなメッセージを持つか。それを考えれば自ずと分かる。
鳩山氏起用はチキンゲーム第二ラウンドの狼煙
私は、鳩山顧問の起用は、チキンゲーム第二ラウンドの狼煙であると見る。
米側に再編見直しの「仕切り直し」を、“日米関係を本質的に損なうことなく”決意させる。
これに結果的に成功した鳩山氏に今後も相談役として関って貰うことを考えるのは当然だろう。
ここで、当然反論があるだろう。
「鳩山氏は普天間問題を迷走させ、日米関係を危機に陥れたではないか」と。
では、問いたい。
鳩山総理の政策により、日米関係がどう「実質的」に悪化したのだ。何か反動はあったのか。外交上の報復行為でもあったのか。何がどう危機に陥ったのだ。それを根拠を持って示せるだろうか?
せいぜい根拠として上がるのは、政府高官の発言や、例のオバマ大統領との晩餐会での話など、実質的な日常的な日米関係にはなんら影響の及んでいない「発言」「失態」の数々くらいだろう。さらに穿ったものには、普天間が迷走したからTPP参加を余儀なくされた、という反論もあるだろう。しかし、それこそバカらしいというものだ。TPP参加は経済・産業界を含めた国民的議論が必要な重要政策課題だ。そんなものを「普天間が迷走したから」程度で従わなければならないと考える官僚や閣僚にこの国の舵取りを任せているのか。
そんな単純なバーターで、「強固な日米関係」が成り立っていると思うのか。
日米それぞれのこれまでの軌跡
鳩山政権の政策が、在日米軍再編の問題で実際にもたらした「結果」は何だったか。
これは、検証された試しがないのではないか。
だが、時系列を追って日本で、米国で何が起きたか「事実」のみを辿れば、
「結果」は自ずとあらゆる雑音から分離され、明らかとなる。
はからずしも、先日のクロ現がこれまでの軌跡をまとめてくれていた。
2010年の名護市長選挙→同年の日米共同発表→沖縄県知事選挙→そして2年後の今年、民意は固まり、移設は進まず、ついに再編見直し。そして再び名護市長選挙。
同時期、米国では何が起きていたか。米議会の重鎮は2年の間に4回も沖縄を訪問。
現地調査の結果、各委員会が繰り返しグアム移転の予算を凍結。凍結解除には国防省がグアム建設計画のマスタープランを策定することが必須条件だったが、これを国防省は一向に提出しないでいた。
国防省が予算承認を得るには、グアムでの環境影響評価書(EIS)の最終版FEISの承認を経て、マスタープランを完成させなければならない。ところが国防省はこの最後の段になって計画を進めようとしない。背景は不明だが、これでは予算は一向に降りない。
そこで、矛先が日本に向いた。
米側は自らの計画策定の進捗の遅れに全く悪びれることもなく、日本側に普天間の移設を進めることが議会の心証をよくするかもしれないと、完全に責任を転嫁して、あたかも計画の遅れが日本の責任であるかのように仕立てあげた。しかも、日本側はこのイメージを助長してマスコミに流した。
すでにこれまでの検証作業で、これらのイメージ工作が日本側の主導、もっといえば日米国防官僚の連携で行われてきたことは確認できている。その失敗の責任も、日米双方の国防官僚の政策責任者が辞任することで幕引きとなってきたことも確認済みである。
つまり彼らは勝手に自滅した。
具現化した米軍再編見直しの機会
日本側にとって履行に無理のある「普天間移設の進展」という条件を「パッケージ」としてきた日米双方の一翼が崩壊したことで、日米双方の国務・外務官僚が主導権を握り、実行不可能な計画に終止符を打つことが検討され始めた。これに追い討ちをかけたのが、13年度国防権限法の成立だ。
国防権限法の成立により、グアム移転予算はこれまでの議会での議論を踏襲して正式に全面凍結され、解除のための条件も法定要件へと格上げされた。これで、国防側はもう打つ手なしとなった。さらに国防予算の削減を議会に「パッケージ」にされ、計画見直しを余儀なくされた訳だ。
こうして議会と国防省の攻防が静かに米本国で行われている間、米政府は日本政府に対してどのような対応を行っていたか。クリントン国務長官はことある事に「日米関係は磐石である」ことを繰り返し表明し、沖縄で不遜な発言を行った国務官僚は即責任をとらされた。
日本側への最大の配慮である。
極めつけは311後の『トモダチ』作戦だ。米軍は震災発生後数日で自衛隊と連携して見事な救援活動を展開してくれた。これは「事実」である。米軍にとっては、それは在日米軍の存在を誇示する絶好の機会でもあり、その好機を逃さなかった。
鳩山政権後何が起きたか:日米同盟の深化である。
実質的・本質的に変わらずむしろ深化した日米同盟
鳩山政権が「迷走」したといわれる、2010年からの2年間で、日米関係そのものは「迷走」したのだろうか?日米同盟は、その存続の危機に陥ったのだろうか?日米の外交諸課題における連携は弱まったのだろうか?そして、日本は米側に「一方的に」不利な条件を呑まされているのだろうか?
TPPの問題にしたって、米側の意向を「率先的に受け入れよう」と考える人間らが推進しているのだろう。別に普天間で「迷惑をかけたから」そのバーターでTPPに参加しなければならない等という稚拙な駆け引きは行われていない。国の利益を考え、それが正しいと信じているだけだ。
玄葉外相は「米国は対議会の関係。日本は対沖縄との関係で、それぞれ問題を抱えていると。したがって、「お互いに知恵を出し合おう」と言ったのが、まさに日米外相会談だったわけです」と、日米双方が膠着状態にあった背景を率直に認めている。
これらの背景を勘案して、鳩山政権以後、日米関係がどう「実質的かつ本質的に」悪化したのか、説明できる識者がいるなら是非例示してほしい。また、沖縄や他県において「県外移設」や「負担軽減」を求めたことが、どのような「実害」をもたらしたのかについても、例示してほしいものだ。
感覚論やメディアの解釈論で、一国の総理が行った政策が「実体化」されるなら世話はない。積み重ねられた事実は二国間の行動の記録に残されており、これは覆せない。むしろ鳩山政権が初めて「米国離れ」を見せたことで、米側は必死に日本の囲い込みに走った軌跡であると見てもいい位だ。
鳩山政権以降、歴代政権は政権交代直後の方針を貫いてきた。県外移設を追求し、それで米側が応じなくても、県内が本当に駄目だということを国内外に示し、遂に米側に折れさせ、再編計画の見直しにまで漕ぎ着けた。その功績があるからこそ、鳩山氏は外交顧問に就任したのである。
そして鳩山氏をいま、この時機に外交顧問とするのは、民主党政権の外交政策への自信回復の表れでもあるだろう。おそらく党内・歴代政権の誰も、鳩山氏が打ち込んだ楔がこのようにじわじわと効いてくるとは思っていなかったに違いない。国内外のメディア等に翻弄され、目先の混乱に囚われ大局を見失っていたのだ。
以上
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