photo by kind courtesy of @atuktekt (*click the photo for details)

2014/07/07

長編コラム:集団的自衛権は、正しくも、必要も、抑止効果もない。各論③集団的自衛権の行使容認に抑止効果はない

集団的自衛権の行使容認に抑止力向上の効果はない。
それは、端的にいえばアフガン戦争をはじめとする「テロとの戦争」の成果を見ればわかる。

1.非対称的な戦争(テロ戦争)での抑止効果


第二次世界大戦ですら、5年で終結した。ところがアフガン戦争だけで13年も続いている。
民間人約2万人の命と、多国籍軍兵士約3000人の命が失われている。

またアフガン戦争の勃発により、テロの脅威は世界に拡散し、かつ増大した。911直後、インドネシアのバリで、スペインの鉄道で起きたテロ事件を覚えているだろう。日本でも炭疽菌テロに備え民放が公共放送のように報じる事態となった。

同時に、アフガンで展開していた不朽の自由作戦(OEF)のバージョンは各地で増えていった。例えばアフガンでの作戦はOEF-A。フィリピンでの作戦はOEF-P。ソマリアの破たん国家が点在する「アフリカの角」でのOEF-HOAという具合に。

アメリカが各地で戦争を起こすたびに、テロ組織や反米勢力は世界各地に分散した。近年ではリビアやシリアにも散らばった。非対称的な戦争は拡大するばかりだった。

おかげで世界各地でテロ戦を展開しなければいけなくなっており、米軍はいよいよ単独でも、集団でも対処しれきなくなっている。(ここに日本が加勢してどうなるという話でもある)

その上、アフガンでの軍事作戦は未だ終結しないまま、米軍は遂に撤退を決めた。米国の敗退であり、集団的自衛権の敗北である。現代において集団的自衛権の行使がいかに実効性を欠くものであるかの証左である。

集団的自衛権は、非対称的な戦争においては効果なしなのである。

2.対称的な戦争(国家間の戦争)での抑止効果はどうか


現在のウクライナ内乱における親ロシア派勢力が、ロシア本国の軍事的支援を受けていることは周知の事実である。ロシアは巧みにその影響力を駆使して親ロシア派の政治勢力を抱き込み、主権国家の領土を平和的に併合するという戦争行為に至った。

ウクライナ及びロシアは独立国家共同体(CIS)のメンバーであり、本来同盟関係にある。その共同体の中でのいざこざについて、CISはまったく解決策を示すことができていない。これは集団安保体制の限界を示しているが、重要な教訓でもある。

一方で、ウクライナが供給する天然資源エネルギーの供給はNATO諸国には死活的に重要である。さて、NATO諸国はその経済安全保障上の脅威であるロシアの行動にどう対処しているだろうか。

集団的自衛権の行使を宣言しただろうか?

実はウクライナもロシアも、NATOの「パートナー国」である。直接の加盟国ではなく、軍事力も貢献できないが、少なくともNATOの「敵対勢力」ではないのである。

このようなロシアの巧みな無力化工作により、NATOは事実上、ロシアをはじめとするCISに集団的自衛権としての軍事力行使をできなくなっているのである。軍事力による同盟は、政治力・経済力で突破できるのである。

21世紀の現代において、多国籍軍による集団安保行動には一定の活路があるとしても、NATOの肥大化した前時代的な同盟はもはやその存在意義を失っているといっても過言ではない。同盟国の中に敵性国家が存在したときにこれを制裁する機構がないのだから。

英フィシャンナルタイムズは、「日本がやっと普通の国に近づいた」と論評したそうだが、大きなお世話である。いまさら、米国の戦争に付き合うしか大義のなくなった集団的自衛機構に貢献する力を日本が持ったとして何になるというのか。

もし、同紙が論じるように日本にアジアにおける集団安保体制を構築する能力があるのならば、それは時代遅れなNATOのような地理的制約のある集団的自衛機構ではなく、軍事・政治・経済的な問題を平和裏に内部で解決する統合的な機能を持つ、共有型安保機構となるだろう。

現在の集団的自衛権に基づく軍事同盟機構では、国家間の対称的な戦争に対してすら抑止力足り得ないのである。

3.アジアの大国中国に対する抑止効果


では、日本の最大の仮想敵国である中国に対する抑止効果はどうだろうか。はっきりいって、行使容認の前後で変化はないだろう。それは、現行で既に個別的自衛権に基づく片務的な日米安保条約が機能しているからだ。

集団的自衛権により、日本の自衛隊各隊が米軍をサポートできたとしても、米軍単独で対処可能な範囲の能力に大きな向上はない。むしろ日本側はそれをわずかに補完できる程度だろう。

安倍政権は米国の影響力低下を念頭に、日米安保による対処ではなく、日米安保+アセアン+2+オセアニア(豪州・ニュージーランド)等との共同戦線による抑止力強化を目指している。

が、肝心の米韓同盟の一角である韓国とは関係が最悪な状態のまま、アセアン諸国やオセアニア各国のとのみ軍事的な連携を強化しようとしている。

関係諸国での友和を図ることなく、結束を強化することには無理があるし、各国の軍事力を総合しても中国に対抗する軍事勢力にはなり得ないだろう。

逆にその中で日本の軍事力が抜きんでるのであれば、日本が各国防衛のために戦争に駆り出されることになる。これでは、日本が各国から得られる微々たる安全保障に比べ、日本が与える保障の負担が大きすぎる。

およそ、互恵的相互関係とはいえない。

むしろ、中国に敵対するのではなく、中国を総合的な地域安全保障の中に入れ込む位の発想が必要だろう。

よって、従来の集団的自衛の枠組みでは、いくら束になってもアジア各国の軍事力では中国に対抗し得ない。米軍の抑止力ならば、個別的自衛権が認められる現在でも十分に発揮されている。

それを「不十分」とするならば、米軍やアセアン諸国の寄せ集め連合軍よりも有効な対策を講じる必要があるだろう。最も堅実かつ現実的なのは、時間をかけて中国を地域的集団安全保障の枠組みに取込み、その中で逸脱した行為が戒められるようにすることだろう。

集団的自衛権の行使容認は、もはや現代において抑止効果を高めることには繋がらない。逆に各国の紛争に巻き込まれる蓋然性が高まるだけで、百歩譲っても、「百害あって一利しかない」としか評せない。その一利とは、「偽りの安全」という観念・心理的な安全である。

以上

これにて「集団的自衛権は、正しくも、必要も、抑止効果もない。」シリーズを終わりとする。

0 件のコメント: