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2014/06/21

長編コラム:些末な集団的自衛権議論が触れないこと⑧機雷除去行為と容認要件との整合性


「首相はホルムズ海峡が機雷で封鎖されれば、「経済的なパニックが起き、日本は決定的に被害を受ける」と指摘する。首相の経済政策「アベノミクス」を成功させるためにも安定したエネルギー供給が不可欠となる。」(2014.6.18付産経

政府の理由は自ら定める要件と矛盾する 


政府寄りの報道によると、進行中の集団的自衛権の容認を巡る与党内協議で、安倍首相は機雷除去について一切譲歩するつもりはないらしい。理由は、「国家存立の危機」でも「急迫不正の侵害」でもなく、「エネルギーの安定供給」や「アベノミクスの成功に必要だから」だという。

それでは、現在暫定合意されている新政府解釈による集団的自衛権容認の前提にすら見合わない。

つまり、安倍首相は自ら定めた要件と矛盾した主張を最重視している。

「エネルギーの安定供給」はどの国にとっても重要な課題である。

この前提には同意する。

が、 しかし。かつてイランによりホルムズ海峡が封鎖される危機が生じたことがあったが、我が国でエネルギー危機は起きていない。それは「ぎりぎりの線」でエネ ルギー備蓄や迂回ルート等により確保できたことによるものなのかもしれない。また、それは高負荷な選択だったのかもしれない。

だが、「国家の存立」に影響しなかったのは事実だ。

つまり、政府の目指す「エネルギーの安定供給」を目指す上での集団的自衛権行使の容認は、エネルギー輸送コストの高負荷をなくすための経済的配慮としての政策なのである。

要は、これまでなんとか迂回ルートや備蓄利用で国内でやりくりしてきたが、それが貿易支出を圧迫し、国内産業に影響し、国際競争力を削いできた。有事にこれ以上のリスクは抱えきれない、というのが本当のところの理由だ。

経済的利便性の改善を、「国家存立の危機」に準えているのである。これは詭弁だ。

エネルギー関連の財政コストや経済性が理由の集団的自衛権の行使は、政府自ら定める行使の要件と矛盾する。
自衛権は、「武力行使に対する自衛」のための国家固有の権利であって、「経済的危機」からの国益保護のための権利ではないのである。

政府もその解釈の擁護者も、そこをはき違えてしまっている。


海洋航行の安全確保は「集団安全保障」と「共同部隊防護」により成り立っている 


国家経済を理由に集団的自衛権を行使できるような世界なら、集団安全保障は成り立たない。

集団安全保障は、何も国連による軍事・非軍事的制裁措置のみを指すのではない。全体として、国際法治により集団の安全を保障する体制なのである。これには、海洋の安全な航行も含まれる。

海洋の安全な航行の権利は、国連海洋法条約により国家固有の権利として保障されている。我が国は近年、この条約に加盟し、同条約の庇護下にある。

その他にも国連の外の枠組ではあるが、地域安全保障の一環として米国が主導するPSI(Proliferation Security Initiative:軍縮・不拡散. 拡散に対する安全保障構想)に基づく活動がある。

外務省曰く、「国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器・ミサイル及びそれらの関連物資の拡散を阻止するために、国際法・各国国内法の範囲内で、参加国が共同してとりうる移転及び輸送の阻止のための措置を検討・実践する」ための国際的な取組みだ。

米ブッシュ政権が提唱して発足して以来、10年以上の歴史を持つこの活動に、我が国は積極的に参加してきており、外務省曰く「各国が開催する殆ど全ての訓練に参加している」。

安倍政権は、自ら掲げる「積極的平和主義」推進政策に基づき、このPSI活動への「積極的な貢献」の強化を目指している。その中で、軍事的貢献を拡大するために、集団的自衛権行使の容認を推進しているのである。

これも、米国による要請であるが、活動は集団的自衛のもとに行われているのではなく、国連を離れた(安保理決議を必要としない)平時の集団安全保障活動の一環として行われているのである。

この活動の中で集団的自衛が必要になるとすれば、それは戦略レベルでは参加国間での単独的自衛権(unit self-defense)の行使、戦術レベルでは共同部隊防護(force protection)により成り立つ。国家レベルの集団的自衛権の行使容認は必要ない。

この共同部隊防護を実現するには、たしかに現状の部隊行動規則(ROE=交戦規定)の見直しは必要だろう。それに伴い自衛隊法の改正も必要となる。だが、これらの改正を行うのに集団的自衛権の容認が必要であるという前提には無理がある。理由は、過去のシリーズ③④で詳述しているので参照されたし。

以上、ここまで長文の精読を感謝します。

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