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2013/09/20

《コラム》2013/9/19付R25石田衣良コラム「光り輝く2週間」への失望と怒りの檄


全文転記


今朝早く2020年の東京オリンピック開催が決定した。ぼくは暗いうちにベッドのなか、スマホで確認したのだけれど、どにかくうれしかった。久々の爽快感。ガッツポーズの5分後には、また眠ってしまったけれど。

ぼくも東京オリンピックの記憶はごくわずかしかない。あれは4歳のころ、まだ白黒だったテレビで眺めた開会式とマラソンの映像がかすかに残っているだけだ。ただ大人たちが「オリンピックはすごい」「これで日本も世界の一流国の仲間いりだ」と興奮していたのを、不思議な気分できいていた。幼稚園児だったので、駆けっこの大会を東京で開いたからといって、なぜ一流国なのか意味がぜんぜんわからなかった。

夏季冬季をあわせて、これまでもっともたくさんオリンピック開いたのはアメリカの8回、ついでフランスの5回である。今回の決定で日本も4回目で、単独第3位になる。4位グループにはイギリス、ドイツ、イタリア、カナダがいるのだから、一流国というのも間違いではない。今回、選考にもれたトルコはイスラム圏初をアピールポイントにしていた(次回はぜひ、がんばってもらいたい!東京開催が決定したあとのトルコの人たちの祝福の言葉は実にあたたかかった)。未開催なのはなにもイスラム圏だけではない。アフリカ大陸にオリンピックがいったことはないし、次回のリオ・デ・ジャネイロ大会まで南米大陸で開催されたこともないのだ。アスリートの祭典は、まだ先進国主導なのである。

最終プレゼンはぼくもリアルタイムで観たけれど、限界までジェスチャーを豊かにした英語のプレゼンテーションには素直に頭がさがった。いや、日本人にあれは厳しいよなあ。ぼくにはとてもできない。でも、はずかしいなんていってられないし、勝たなければこれまでの活動は水の泡だ。なにより日本中の期待を背負っている。プレッシャーは半端ではなかったことだろう。ご苦労さま。

ことによかったのが、パラリンピック女子陸上の佐藤真海選手だった。骨肉腫で右ひざから下を失い、日本代表選手になったのち、故郷の気仙沼が東日本大震災に遭う。家族の安否は6日間わからなかったという。再度の衝撃から立ち直れたのは、スポーツの力があったからだと訴える笑顔は、どの国の委員の胸にも響いたはずだ。

安倍首相のプレゼンも見事。ぼくもこの春、フランスにいったからわかるのだが、海外のジャーナリストがインタビューの最初に質問するのは、必ずといっていいほどFUKUSHIMAである。半年まえはまだ汚染水はこれほど話題になっていなかった。それでも相手を納得させるのは、たいそう困難だった覚えがある。

これで福島第一原発の問題を終息させるのが国際公約になった。けれど、ぼくは本心ではあまり心配していないのだ。政府や東京電力を信用しているのではない。きっちりと期日を定め、計画を完遂する日本人の生真面目さを信じている。みんなでフクシマをなんとかしよう。もう他人事ではないし、世界中が注目している。東京オリンピックを成功させるためには、早々に片付けなければならない仕事だ。

さて7年後、きみはいくつになっているだろうか。まだ同じ会社や同じ部署にいるか。すこしは昇進して、給料もあがっているか。人脈も増えて、仕事の肝をつかんでいるか。若いきみがこれから身につけるスキルは、きっと生涯役に立つはずだ。変化はなにも仕事だけではない。プライベートはどうなるか。今つきあっている相手と別れているか、結婚しているか。もしかしたら、子どももいるかもしれない。それもひとりではなく、複数の可能性もある。

未来がどうであれ、7年後の夏には光り輝くような2週間のお祭りが待っている。その日をたのしみに今日を生きよう。



以上、9/19付R25石田衣良のコラム
『光り輝く2週間』の連ツイはこちらで読めます。

あとがき


石田さんらしい、やわらかい調子の温かみ溢れる、よいコラムだった。あまりに温かすぎる=ほんわかしている=現実を無視し過ぎているという点を除いては、日本人として東京オリンピックの開催日を誕生日に持つ者として、共感できることが多々あった。

だが、失望は隠せない。

私は日本人の良いところばかりを信じて、ただよい結果が得られるという楽観的な観測はもう抱けない。日本人が「きっちり期日を定め」「計画を完遂する」生真面目さを持っている一方で、その「計画の完遂」という大義のために何が失われてきたか。ちょうど今日の日経が、そのことを記事に書いていた

日経が取り上げたのは、私の考える「本質的に失われたもの」とは違う。これが、所詮経済誌の視点ということだ。石田氏はコラムで幼少の頃「日本が世界一流国の仲間いり」を果たしたと湧く周りの大人を不思議に思ったと書いてる。

私は今も不思議に思う。

先進国入りも果たし、経済大国となり、軍事大国となった今も、「こんなに湧く」国民性は一体何なんだろう。しかも、それが何も大きな問題に直面していない普通の状態でならまだわかるが、未だ国難といえる状況にいる只中で。

2008年、約50年前に幼少だった石田少年が経験したであろう熱気に包まれた新興国があった。アジアでの20年降りの開催、そして初の開催国となった中国だ。奇しくもコラムにあったように日本は4回目の開催だ。何をそんなに浮かれることがある?

日本は未だ国難の只中にある。その中で、歴代政府は多くの国民や世界の人々が危惧するような危機感を共有せず、知り得た情報を開示せず、都合の悪い事実は隠蔽し、現在の危機を現出させた。最大の責任は民間企業である東電にあるがその監督責任は免れない。

オリンピックを成功させるために「みんなでフクシマをなんとかしよう?」反吐が出る。“みんな”とは誰のことだ。一体誰が「なんとかする」実務に携わるのだ。一体誰がその直接的影響を受けるのだ。250キロ離れた東京の人々か。それとも被災者たちか。

これまで2年間。いや半世紀以上、「臭い物に蓋をしてきた」日本人が“みんな”で共有する「フクシマをなんとかしよう」という共通目標のために、一体何をすることが想定できるのか。政府・規制当局・自治体・企業・市民ぐるみの隠蔽ではないか。

08年の北京オリンピックの時に、中国の“一流国の仲間入り”を素直に歓迎できない輩がやたらと、中国の「ハリボテ・オリンピック」を揶揄したことはまだ記憶に新しい。あれもいってみれば中国流の「臭い物に蓋」をするやり方だ。だが「オリンピック成功」という大義を持った日本人は、同じ事をしないと言い切れるのだろうか。20年の開催を前に、同じような「ハリボテ」の見せかけの体裁作りが為されると危惧するのは、杞憂だろうか。もっとも、日本の場合のハリボテは物理的なものではないが。

7年後の日本の「ハリボテ」は、もっと醜悪なものとなるだろう。被災者を福島に封じ込め、放射能汚染水の脅威も福島に封じ込め、福島には原子力災害対策の国際的な研究支援センターなるものを作り、精神的なハリボテで世界を欺こうとするだろう。

実際、私たちは石田氏が「見事」と絶賛するそのプレゼンの中で、その片鱗をまざまざを見せつけられた。政府は幾らでもウソをつくつもりだ。それが「日本人の名誉である」かのように、同調圧力により、五輪開催に非協力的な情報を封じるかのように。

いま五輪開催を歓迎し、「その為に」“フクシマをなんとかしよう”と宣う人間は偽善者以外の何者でもない。五輪の為に福島をなんとかするべきなのか。その為の国際公約であり、その公約がなければ政府や国民は動かないということなのか。

嘆かわしい。

百歩譲って、では五輪のために福島が”なんとかなる”としよう。それが散々揶揄された中国の「ハリボテ五輪」とどう異なるというのか。新興国として初開催に漕ぎ着けた国と、我が国の精神レベルは同レベルなのか。まずはそれを恥じることから始めよう。

東京五輪があってもなくても、日本は世界に対して「フクシマをなんとかする」責任を負っている。その為にしなければならないことも、その重要性も、五輪の開催如何に関わらず変わらない。そうでなくては、日本は真摯にこの問題に初めから向き合っていたことの証明にはならない。

「早々に片付ける」?

そんなこと2年前から日本全体が一丸となって考えるべきことだっただろう。実際、一部の人は行動を起こした。決して多くはない一部の人々は、政府に訴えた。法的行動にも訴えた。ボランティア活動を行った。ネットワークを作った。仕事や家事を投げ打った人もいた。それをすべて、せせ笑いながら傍観していた者たちが今更何を言う。

偽善者らめが。

いま「福島をなんとかしよう」と堂々と発言することができるのは、2年半前から実際に「なんとかしよう」と動き続けてきた人間だけだ。後出しで「東京五輪を成功させるために」「早々に片付ける」なんていう精神で今更問題に関わろうとするなど片腹痛い。今更のように「国際公約だから」「後7年しかないから」という姿勢で、政府や東電に福島の問題に取り組むことを求める人間には口を噤んで貰いたい。

というより、恥を知れと言いたい。

その人間の一人に好きな作家の石田衣良が加わったことを残念に思う。

ひとつだけハッキリしたのは、東京オリンピックの開催が決定したことで、私は石田衣良とは正反対に、7年後生きていたくないという思いを一番強くしたことだ。だから「2週間のお祭りをたのしみに今日を生きる」ことはしない。そう生きられる人は、ある意味うらやましいが、そうなりたいとは思わない。

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