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2012/02/15

普天間返還:米国防予算概算要求の中身~グアム移転費負担は「追加要求」されるのか


13日のヘイル国防次官の記者会見内容を検証

「米国防総省のヘイル次官(経理担当)は13日、2013会計年度国防予算案に関して記者会見し、在沖縄海兵隊のグアム移転費について「新たな計画ができれば、改めて予算措置が必要か検討する」と述べ、日米両政府の今後の協議でグアムの規模が決まるなどすれば、追加要求する可能性に言及した。」
時事通信(2012年2月14日)より問題箇所のみ抜粋

時事の「追加要求する可能性」という書き方はおかしい。国防省側は「追加要求する可能性」について言及したのか、実際の会見のソースを検証してみた。


国防総省報道記者会見記録の該当箇所


記者会見ではグアムに関する言及は、部分の中で一度のみであることを確認した。
結果として、「追加要求」に類する文言は確認できなかった。
Q: Hi, I believe that only $26 million was requested for the Okinawa-to-Guam realignment plan. Is that number accurate? And also, if you reach a new agreement with the Japanese government about how to carry out the realignment, will you be requesting supplemental funding for that for FY13? (再編の実施について日本政府と新たな合意に至った場合、13年度予算に追加の予算請求を行うのか)

(中略)

I think the answer is that we've come up with a plan, we will need to look again at our financial needs in fiscal '13, and, yes, we may have to adjust them.
「新たな計画ができれば、改めて予算措置が必要か検討する」(時事訳)
「当初の計画があった。13年度については財政ニーズを再検討しなければならない。したがって、そう。おそらく調整する必要は生じるだろう」(改訳)

新合意の為の「追加要求」ではなく旧合意の「調整」に言及したヘイル次官


時事報道では「新たな計画ができれば、改めて予算措置が必要か検討する」とされているが、上記の通り、ヘイル次官は協議の結果新たな合意に至った場合、「追加の予算請求を行うか」という記者側の質問に対して「現行の計画から調整する可能性はある」と述べたに過ぎない。

またもや、報道側が誘導質問したのに対し、米担当者側がその意図を察知してはぐらかし、「新たな合意に対する“追加要求”(supplementary request)」ではなく「現行計画に対する“調整”(adjust)」のみに言及したことがこれで判明した。

また、会見の音声記録を確認して、最後の質問に対する回答で、もう一つのことを確認した。

ヘイル次官がこの回答で"if"と一瞬でも言っていれば、回答の主旨は変わっていた。"if"があれば、それは新合意のことを示すことになるからだ。が、この"if"がなかったことで、「追加の予算」ではなく、あくまで請求済みの予算の「調整」が必要になると回答したことがハッキリとした。請求済みの予算の調整は、予算を増やす可能性もあれば減らす可能性もあることを、時事は意図的に論じてない。

いかにメディアが日本側の負担増を印象付けようと必死であることがよく判る一件であった。

国防省13年度予算概算要求資料の内容確認

上記、国防省ヘイル次官による「予算の追加要求」(時事)に言及したとされる記者会見では、『2013年度予算概算要求』のPPTスライドが配付資料として公開された。この瞬時に情報公開する文化は、防衛省も米軍の“一体化”政策の一環として是非模倣してもらいたいものだ。

余談だが、この国防省スライドPDF、Acrobatがあれば別のファイル形式に書込みすることもできる。すると何ができるかというと、この資料そのものを上書き翻訳できてしまう。実際、セキュリティがかかっていないのでAcrobatでWORDへの書き込みに成功した。これは、官僚に頼らずに国会議員及び一般が一次情報を得る方法の一つだ。官僚は、国会でこれらの資料について説明する場合、全訳を行わずに都合のよい場所だけを切り合わせ「要旨」を作る。

殆どの国会議員は、この情報の精査を行わず、「要旨」の中身のみを事実として捉え、予算を承認してしまう。国会議員に政策立案能力を求める場合、こうした情報精査能力の拡充が最優先とされる所以である。

13年度のグアム移転に係わる建設計画予算


本年度要求では軍事建設計画関連予算が前年度から約2億ドル削減されて9.6億ドルとなっていることが判る。資料によると、11年度が14.8億、12年度が11.4億とのこと。(配付資料p22)
カテゴリー別予算動向(基本予算)


国防省が使い分ける"maintain"と"sustain"の表現の違い


国防省13会計年度資料から、米軍が太平洋シアターの陸軍・海兵隊の兵力展開を"sustain"する方針であることが確認できた。尚、これはこれまで報道されている「維持」とは違う意味を持つ。概算要求報告関連資料を読むとわかるが国防省は二つの表現を使い分けている。

PPT資料で"maintain"と"sustain"を検索すると、国防省が補償制度は"maintain"するとしている(p17)が、陸軍・海兵隊兵力は"sustain"するとして(p11)、表現を使い分けていることが判る。この使い分けには明確な意図がある。
軍事補償制度についての変更の実施

アジア太平洋/中東シアターにおける兵力バランスの再考


内外への政治的配慮による表現の使い分け


国家機関の制度等に対する表現でmaintainとする場合、これは「保持」を意味する。つまり保ち続けることを意味する。対してsustainは「維持」の意味もあるが、これは「持続させる」という意味が本来の解釈となる。つまり、努力目標に対して使用する表現である。

予算の概算要求の資料でmaintainを使用する場合、これは「現行水準を保持する」ことを意味する。他方、sustainは「持続させる(維持する)よう努力する」ことを意味する。つまり更なる削減の余地を残しつつ削減に対する内外の反発勢力に配慮した政治的表現なのだ。

以上のように、国防省が議会・財務省向け説明として(それが「概算要求」の位置付け)太平洋シアターの陸軍・海兵隊の兵力展開を"sustain"するとしているのは、内向けには「維持するよう努力する」、外向けには「更なる削減にも応じる」ということの表明にほかならないのである。

戦力が現行のまま「維持」されるという報道は誤り


つまり、国防省は、国内外で繰り返し繰り返し様々なソース(国防省内の人物)を通じて語れたと報じられているように、陸・海兵隊の戦力を文字通り「保持」する積もりはなく、「維持する」(所存である)ことを繰り返し表明しているのである。このニュアンスを取り違えてはならない。

海兵隊が更なる人員削減を“予期している”点については、過去にもまとめたが、その背景に、この概算要求書の議会に配慮した内容が、議会の重鎮が重視しているケイトー研究所の予算削減案に“呼応している”かに見られる所以がある。
故に、米軍が太平洋シアターの海兵隊戦力を現行のまま「維持」すると表明しているかのように思わせる報道は誤りであり、米軍が“これまでと変わりなく”太平洋シアターの安保を重視しているという偽りの希望によって海兵隊が撤退する高い蓋然性を打ち消しているに過ぎないのである。

外交に携わる者は、報道官の発表やメディアの誘導質問に回答する関係者の発言等の信頼性の低い情報よりも、相手国政府「内」で配布される文書で使用される文言の機微に注目し、そのターゲット(対象)が誰かによって相手国諸機関の思惑を推し量る


今回示したのは、そのほんの一例である。



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