現在、報道はすべて「自殺とみられる」に固定。総理、官房長官、妻への遺書も「見つかった」ことで自殺の線はますます濃厚という見方が固定された。さらに近々、松下氏の女性問題を扱う醜聞記事が週刊誌に掲載される「予定だった」という情報も出回り、ますます自殺路線が確定的にされた。
松下氏は73歳。高齢な上に癌を抱えていた。週刊誌が報じようとしている松下氏のパートナーといわれる女性も70代で20年来の交際だという。降って涌いて出たような話ではない。職場でもプライベートでも温厚な人柄で知られ、政治信念も一本筋の通った方だったように見受けられる。
松下氏が閣僚として最後に行った仕事は9月6日に金融改革法案を可決成立させることだった。その後、同氏は、国会閉会後亡くなる日の寸前まで地元を回っていたという。最後の最後まで仕事をきっちりやり通す人柄が、最後の数日間の行動に表れている。政治家として立派な方だったのだろう。
松下氏は国民新党所属で、元自民党出身の代議士だった。郵政民営化に反対する立場から自民党を離党し、国民新党に加わったと聞く。民主党政権発足以後、国民新党の独占的ポストとなった金融・郵政改革担当相の地位に、前任者である同党党首の後任として選ばれたのも、当然の人事だった。とはいっても、松下氏は第二次野田改造内閣が発足して初めて同ポストに任命されて、わずか三か月で亡くなってしまったことになる。閣僚としての手腕はおろかやっと業務を把握できた程度の段階だったことだろう。
松下氏は建設省の元官僚で最終職階は部長だった。自民党の衆議院議員として出馬してからも党内の関連ポストで手腕を発揮し、99年から農林水産政務次官、内閣府副大臣を務め、09年の民主党政権発足以降は、経済産業副大臣を野田内閣まで三期務めあげ、野田改造内閣で復興副大臣となった。
松下氏は第二次野田改造内閣でやっと大臣職を経験する。当選5回の議員人生でやっと登り詰めた頂上が、金融・郵政改革担当大臣の位だった。そうして93年から苦節約20年。やっとの思いで自らの政治信念に沿う職にたどり着いた矢先に、松下氏は亡くなった。
以上。報道内容に納得がいかず、昨晩遅くまで読み漁った関連記事やブログの記憶を辿り、そして議員データブックを片手に、松下氏の政治人生を振り返ってみた。国内の報道のみならず、国外の報道にも目を向けた見た。すると英紙FT(フィナンシャルタイムズ)がより本質的なことを論じていた。
FT紙は松下氏が経済産業副大臣として行った仕事に焦点を当てた。それは日本最大のブローカーである野村ホールディングスのインサイダー取引問題への取り組みだった。松下氏の陣頭指揮の下、金融庁の調査により事件が明るみとなり同社CEO及びCOOが辞任に追い込まれた事件である。
FT、ブルームバーグ等の国外主要各紙は、国内報道が余り扱わないこの野村ホールディングス摘発の功績を松下氏の政治手腕によるものと高く評価している。つまり国外専門紙の方が松下氏の閣僚としての実績を高く評価しており、「松下氏に醜聞は一切ない」とまで断言している。
松下氏の死亡についての国外報道(参考)フィナンシャルタイムズの報道:
"Mr Matsushita had not been linked to any scandal"
興味深いことに、FT、ブルームバーグ紙(英語版)の記事は両方とも日本人記者により書かれている。つまり日本人記者の視点から、松下氏の政治実績を語る上で野村摘発の問題は外せないテーマである筈ということだろう。
だが国内各社報道にそうした本質的な報道を行う姿勢は見られない。
松下氏の死亡についての国外報道(参考)ブルームバーグの報道:
A month into the role, Matsushita asked an advisory panel at his agency to examine stiffer penalties for insider trading, including bigger fines for traders and disciplinary action against leakers of non-public information.(松下金融相は6月の就任直後、ブルームバーグ・ニュースのインタビューで、銀行や証券会社といった金融機関に対する行政対応の強化に意欲を見せた。その後も、インサイダー取引に対する罰則を厳格化する方針を示すなど、金融庁や証券取引等監視委員会の検査・監督機能の強化に積極的に取り組んでいた。)
女性問題を前面に出されては松下氏を高潔な政治家と評するのは難しいかもしれない。しかし元中堅官僚の立場で生きた20年の政治家人生を、政治理念の実現のために傾けてきたことはその軌跡や実積、即ち行動からわかる。
その行動を単純な醜聞により葬り去る国内報道の姿勢には同調しかねる。
謹んで、いち人間として、73年の生涯を閉じられた人間・松下忠洋氏のご冥福をお祈りし、遺族の方に深いお悔やみを申し上げるとともに、いち国民として、政治家・松下忠洋氏に対し、その政治人生の約20年間を国家・国民に尽くした国士として深い哀悼の意を捧げるものであります。
合掌
関連報道スクラップ
12:36辺りから記者質問で松下氏死亡に関する言及あり。長官は「ご遺族によりますと、病院側の検死結果は心不全だったと伺っております」とのこと。野田総理は閣議において松下氏の功績を称え哀悼の意を述べたとのこと。
※追記:2012年9月11日午前の官房長官記者会見における松下氏への言及部分
12:36辺りから記者質問で松下氏死亡に関する言及あり。長官は「ご遺族によりますと、病院側の検死結果は心不全だったと伺っております」とのこと。野田総理は閣議において松下氏の功績を称え哀悼の意を述べたとのこと。
15:35辺りから再び記者質問で松下氏の後任について質問。長官は、金融担当大臣の「事務代理」として安住財務大臣が閣議で報告され、当面の間は「事務代理を置く」体制になり、後任については総理が決めるとのこと。
16:30辺りから再び記者質問。松下氏の後任人事で郵政担当も安住財相になるのかと。長官は、「郵政は内閣府との共同なのでただちに臨時・事務代理を置く必要性はなく、川端総務大臣が所管大臣である」と回答。
17:50辺りから再び記者質問。松下氏が遺したとされる閣僚宛の遺書について、閣議で報告・紹介はあったのか。長官は「報道があることは承知しているが、ご遺族の元にあるかと思われ、その事実についても承知していない」
松下氏に関する官房長官記者会見の発言から、次のことが判明しました。
- 検死の結果、死亡原因は心不全であった。
- 後任の安住財相は後任が任命されるまで金融担当の事務代理を務める。
- 郵政担当は共同担当の川端総務大臣が所管大臣である。
- 閣僚宛に遺された「遺書」について官邸は事実を承知していない。
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