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2015/07/09

和訳:2015.07.05国連ユネスコ世界遺産委員会で日本の佐藤全権大使が読み上げた forced to work に言及する声明の問題箇所(頭出し済み公式動画付き)



The Government of Japan respects the ICOMOS recommendation that was made from technical and expert perspectives. Especially, in developing the “interpretive strategy,” Japan will sincerely respond to the recommendation that the strategy allows “an understanding of the full history of each site.” 


日本政府は、技術的・専門的見地からなされた国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の勧告を尊重します。 とりわけ、「個々の遺産の歴史の全容が理解できるものであるべき」とする『説明戦略』の展開に関する勧告について、我が国は真摯に応えてまいります。

More specifically, Japan is prepared to take measures that allow an understanding that there were a large number of Koreans and others who were brought against their will and forced to work under harsh conditions in the 1940s at some of the sites, and that, during World War II, the Government of Japan also implemented its policy of requisition. 


より具体的には、我が国には、1940年代、遺産の一部において朝鮮人その他の多くの人びとがその意思に反して連れてこられ、過酷な環境下での労働を強いられたこと、並びに、第二次大戦中、日本政府が徴用政策を実施していたことについて、理解できるようにする施策を実施する用意があります。

Japan is prepared to incorporate appropriate measures into the interpretive strategy to remember the victims such as the establishment of information center.


そのため、我が国は、犠牲者を祈念するための情報センターの設立等の適切な施策を説明戦略に盛り込む用意があります。



これでは意図が伝わるわけがない


前後が判るように三部に分けたが、一番問題となった【和訳2】の箇所では、佐藤大使の無味乾燥な朗読もさることながら、その文の構成上、日本政府が戦時中徴用政策を実施したことと、「朝鮮人その他」が「意思に反して連れてこられた」ことがまるで分離されて話されている。

これでは意図は伝わらない。

もし日本政府がの枢要な箇所を正確に伝えると意図するならば、二つのことを分離せず一体のものとして表現すればまだよかった。即ち、「第二次大戦中、日本政府は徴用政策を実施しており、遺産の一部において朝鮮人その他多くがその意思に反して連れてこられ、過酷な環境下での労働を強いられた」と。

そうしたら当然ながら英文(正文)も、「朝鮮人その他多くが意思に反して連れてこられた」のは、当時の日本政府の徴用政策によるものだと一目で分かる。そうすれば、いま行われている「強制労働」に集中した神学論争など起きなかっただろう。

後は、戦時徴用の合法性と正当性の問題だけとなった筈だ。

問題は戦時法制の肯定姿勢にある


神学論争に終止符を打つとすれば、まず、法が存在しそれが適切に施行されているのならば、また当時の大日本帝国憲法下、国際労働法において「戦時徴用」が合法であるならば、その事実だけで済む。合法性の議論はこれだけで終わる。問題は「戦時徴用という考え方」を現代において正当とすべきかだ。

即ち、この問題の核心は、「戦時徴用」が合法かどうか、また朝鮮人がその法制下で強制されたかどうかではない。問題は、現代の日本政府が、戦時徴用という、合法ではあるが悪法でもある当時の日本政府の行為をどう受け止めているかだ。戦時だから徴用してもよいというのは、そもそも愚策なのである。

当時の戦時徴用は、国民総動員法の一環として体系的に行われていた。物量・工業生産力・経済力で全く敵わない相手に戦争をするに当たり、国民の最大の犠牲を強いた愚策である。それでも勝てる相手などではなかったのに。この悪法により、全ての不条理が「戦時」という二文字で許容されることとなった。

無論、当時合法かつ社会正義と信じられていた価値観を現代の価値観では裁けない。それはこの批判の趣旨ではない。問題は、現代において、当時を振り返る政府がそうした愚策といえる政策をどう捉え、どう考えるかだ。少なくとも、徴用が合法であったと強調する現行政府は悪法とは捉えていないようだ。

つまり一つの現実的可能性として、日本が再び戦争が可能な国となった時に、国民総動員法のような戦時体制の復活というのは、十分あり得ると考えられる。なぜなら、現行の政府は当時の政策が合法であり、国際社会にそう胸を張って宣言しているからだ。

ならば当然、自らも類似の法制を実施するだろう。

知ってのとおり、日本の総人口は更なる減少傾向にある。少子高齢化も進んでいる。そんな中で、日米同盟強化のために、自衛隊の役割が強化され、防衛費が増額され、即ち人員が増える。あらゆる求人戦略により、若者がこの増員枠に吸収される。そして一度戦争に巻き込まれると、人員は減り、補充される。

少子高齢化が進む中でこんなことをしていれば、いずれしわ寄せは一般国民にふりかかる。それが「総動員法」だろう。我が国は慢性的に人手不足なのだから、ある境を越えたら職業選択の自由等を与えている余裕はなくなる。そして文字通り「総動員」される。これを是とするのが現政権だ。

今回の世界遺産登録で、遺産登録という実をとりながらも外交的敗北を喫した。国民感情的には政府を許せないかもしれないが、それ以上に問題なのは、国民総動員法のような悪法を是認し、これを軸に国際社会に論陣を張る政府の姿勢だ。現行政府は戦時法制を肯定しているのである。

これに戦慄すべきだ。


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