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2015/10/26

【コメント】イラク戦争の総括が未だ行えない日本~ブレア英元首相の「謝罪」報道を受けて~ #安保法制



及び腰な国内報道


長年「対イラク武力行使」として議論されてきたイラク戦争の正当な総括が、遂に戦争の最大の当事国の一つである英国の当時の元首相からもたらされた。このこ と自体は感慨深い。しかしその報道のされ方が、戦争に賛同したこの国において、やや”及び腰”であることには不満をおぼえる。

今回ログルでまとめた英紙デイリーミラーのハイライトは、英紙が報じたそのままのものだ。つまり、米英が始めた戦争の最大の当事者の一翼を担った英国のメディアは、あくまでブレアが戦争の過ちを認め謝罪したことに焦点を置いた。戦争当事国としての一大ニュースはその一点にあるのだ。


ところが国内の報道では、ブレアが「サダム失脚については謝罪しない」としたことを、さも両論併記の原則を保っているかのように報じる。CNNの番組につい て初報を打った英紙デイリーミラーでは「謝罪した」ことにフォーカスが置かれ、全世界の報道がそのことでもちきりなのにもかかわらず、だ。

また朝のツイートでも指摘したが、国内で初報を報じたとみられる朝日の記事は、その翻訳の内容からしておかしい。まるで、ブレアの発言の重さを”相殺”するかのような、実に恣意的な訳になっている。これで”両論併記”すれば、総合的には「謝罪しなかった」ことにウェイトがかかる。

なぜ報道価値があるのか


英紙デイリーメールがハイライトした3つのポイントは、ブレアが、①イラク攻撃理由となったインテリジェンス(情報)が誤っていたこと、②IS台頭を招いた (力の空白を生んだ)”第一の要因”であるという指摘に「幾分か事実」(element"s" of truth)があること、③現在のシリアの戦乱に至るまでの状況を生み出した責任があることを、それぞれ大筋で認めたことにある。

たしかにCNNの対談では、ブレアは「サダムを排除したことについては謝罪できかねる」と、結果的にサダムを失脚させたことの功績については頑なに否定しな い。しかし世界の関心事は、「認めなかった」ことよりも、「認めたこと」にある。戦闘終結後長年責任を”一切”認めなかった当事者が戦争の誤りを謝罪した のだから、それこそが伝えるべき価値なのである。

イラク攻撃の支持とイラク自衛隊派遣については、どのような教科書通りの 理屈があるにせよ、当時としては大規模な数万人規模の反対デモが行われたことを記憶している。同時期、お隣の韓国を含めた関係各国では数十万人規模だっ た。そのくらい、「正当性の無い戦争」として世界に見られていた戦争だった。

この”正義なき戦争”を(”正義のある戦争” などもともと存在しないが)、諸手で支持・支援した当時の自公政権、そしてその"後始末"であるイラク復興支援へという名の戦地自衛隊派遣に賛同した人間 は、イラク戦争がもたらした結果を重く受け止め、その道義的責任を負わなければならない。

はからずもこの戦争の最大の当事 者の一翼を担った英国首相は、現在のシリアの混迷した状況を生み出した要因がイラク戦争にあることを大筋で認めた。また単に「一理ある」という月並みな表 現ではなく、「幾分か事実」であることを認めた。つまり幾つかの事実が連なって今の状況を生み出したという認識を示したのである。これは実に重大な発言 だ。

中途半端に行われた政府内検証

では、まず①イラク攻撃を支持し、②その後始末の復興支援のため戦後史上初の戦地派遣というリスクを負ってまで自衛隊派遣を行ったわが国の政府はこのことをどう受け止めているのか。実は2012年12月、安倍政権の発足前、外務省により検証がなされていることは広く知られていない。

ただし、この検証報告には「日本政府が米英等の武力行使を支持したことの是非自体について検証の対象とするものではなく」という但し書きがついている。あく まで「外務省内における検討や意思決定過程」の検証であり、政府全体のものですらない。つまり、安保法制に基づく今後の集団的自衛権の行使に至る判断基準 を検証するものではない。

事実、外務省は「結果的にイラクに大量破壊兵器が発見されなかった現実がある中で,改めてこの期 間の政策決定過程を検証し,もって教訓を学び,今後の政策立案・実施に役立てるとの観点から行ったもの」でしかないことを認めている。もとより検証不足で あることは承知の上での公表なのである。

尚、この政府の検証内容に対し、JVC(日本国際ボランティアセンター)を含む国内の市民社会組織(CSO)6団体は、「検証の内容は不十分」として一蹴し、報告書の全面公開を要求した。だが2015年現在、この要請は受け入れられておらず、また国会内でもこの報告書を検討した事実は確認されていない。

参院での安保法制の審議の渦中、山本太郎議員がイラク戦争の総括を求めた背景には、こうした事実があった。民主党政権下で政治主導の下で行われた「検証」作業は、結局外務省の対応のみを検証するもので、政府全体とくに官邸側の判断を検証するものではなかったからだ。

山本太郎参議の審議で情報提供面で協力したとみられる、フリージャーナリストの志葉玲氏が事務局長を務める「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」 がいまも活発に活動している背景には、政府による検証努力が不十分であり、かつ、その中で安保法制により、「次の戦争」に加担する体制が作られようとしていることがある。

先 日10月25日放送の『NHKスペシャル「新・映像の世紀」』の内容は、百年前の1918年に終結した第一次大戦の結果が、いかにして現代まで連綿と続く紛 争の要因となっているかを紐解いた。ではほんの十数年前の戦争は、現代の何の状況に影響しているのか。政府の一部の政策検証等で足りる問題ではない。

英国のブレア元首相は、イラク攻撃が、結果として「サダム失脚」の功績を生んだことを否定しないまでも、現在のIS台頭を招いた要因となったことを認めた。戦争には因果があり、それは次なる戦争の呼び水となる。この真理を認めたも同然なのである。

将来に大いなる禍根を残す安保法制の成立

わ が国の政府は国民の多くの反対を押し切り、国会規則すら満足に守らず、数の暴力によるゴリ押しで、同盟国米豪との共同軍事作戦を可能にする安保法制を成立 させた。満足な歯止めもなく、時の政権の政治的判断により、イラク戦争のように米国の戦争に賛同・支持し、又は参加する蓋然性が高まったのである。

イ ラク戦争時の政府全体、とりわけ首相官邸での意思決定・政策立案・検討・指図内容、責任の所在などの検証は、本来、安保法制を検討する時に、重大課題事項 として国会全体で検証されるべきことだった。また報道も、この必要性を強く主張し、現在に至る疑義のある政治判断として世論喚起を行うべきだった。

こうした総合的な検証と、これに対するメディアの批評による国民全体での検証なしに、私たち日本国民は安保法制という次なる戦争への安易な加担を可能にする法制を成立させてしまった。



イ ラク戦争がIS台頭と多くの難民を生み出す大きな要因となったように、これから日本が加担する将来の戦争も何らかの負の結果を生み、その【直接的責任】を 私たちや次の世代は負うことになる。集団的自衛権の行使容認により「戦争できる国」になるとは、そういうことなのである。


このことが意味する重大さの自覚なしに安保法制を支持し賛同した人間の発想は、安易で、短絡的で、かつ、利己的であると言わざるを得ないだろう。自らの思想信条を優先したがゆえに、将来に渡って、国全体に大きな業を背負わせることになるのだから。

2014/09/23

【悲報】コラム: 慰安婦問題で展開される不毛な論証・反証のいたちごっこを永続させる要因は、日本人の低い英語読解力だった。(完全版) #主戦場




はじめに


この件についてはこれまでも何度も述べているが、従軍慰安婦の問題を”強制連行”のみの観点で「その事実はなかったので問題なし」として、”強制”の事実そのものが全くなかったかのように論じる連中は鬼畜である


朝日叩きで狂喜乱舞している、そうした鬼畜どもをまた黙らせる材料が今回、ネット上に再び登場したことは喜ばしい。

一般的に、"強制"とは「力を用いて他者を無理に従わせること」と解される。この"力"にも色々とある。軍人ならその威圧感だけで強制することも容易いが、組織的には行政を操る"力"により手続上、有無を言わさずその対象者を従わせることもできる。二次大戦中、この"力"をもっとも悪用したのがナチスだ。

ニュルンベルク裁判では、この行政手続により数々のユダヤ人虐殺計画がドイツ第三帝国政府により主導されたことが判明した。それもこれも、ドイツ人が病的なほどに何でも記録する国民性のおかげだった。これは、当時判事を務めたアメリカのジャクソン首席判事が米軍の記録映画の中で認めている。

日本の場合、こうした行政記録は混乱のさなか見事に消されている。本土で陸戦が行われず、連合軍の電光石火の占領に見舞われたドイツに比べ、証拠を隠滅する時間が豊富にあったからだ。ドイツと違い日本が非人道性の観点から裁かれなかったのは、それを指し示す十分な”証拠”が存在しなかったからだ。その”事実”が存在しなかった訳ではない。

慰安婦・兵士当人の”証言”の不確実性


二次大戦において”不問”とされた旧日本帝国軍の人道犯罪だが、現代においては国際女性戦犯法廷なるものが民間で設置され、いまも犯罪性の追求は世界規模で行われている。これを先導してきたのが、被害者女性や日本兵士たちの証言を収集・記録してきたアジア資料センター(アジア女性基金)等の女性人権擁護団体だ。

しかしこうした資料集めは困難を極めた。信頼できる証拠とするには、不十分な要素が多かったからだ。例えば、兵士証言や慰安婦証言の食い違いにより事実が検証できなくなったりする。同じ立場の証人同士が真逆の証言をして事実の確認を困難にすることが往々にしてあるからだ。

結局、軍による「強制」の否定派と肯定派の間で、証拠の証明合戦がいたちごっこのように続き、現在に至っている。否定派は慰安婦らが自由意思で就労した、或いは現地の人間が任意で仲介役を果たして奉仕させたことを示す証拠を持ってきて反論する。だがいずれも"強制”の「全否定」に繋げるには弱い。

一方で、”強制"の事実に関しては日本人女性含め慰安婦側からの証言と、慰安所を利用した兵士側の証言が出そろう。兵士自身が慰安婦は何らかの”強制”され就労を余儀なくされていることを認めているのだ。これはそれぞれの兵士個人の慰安婦に対する価値観も大きく影響するのだろう。

「吉田証言」を巡る国連報告書の翻訳の質


こうして”強制”の否定も反対もこう着する中で一石を投じたのが、朝日のいわゆる『吉田証言』を巡る一連の報道だった。大手新聞社が決定的といえる証拠を挙げて大々的に報じたため、「吉田証言」は”強制”肯定派の1つの拠り所のようなものになった。が、それが全てではなかった。だから国際的には吉田証言は、”数ある証言の中の一つとして”のみ捉えられている。

嘆かわしいことに、そのことに現政権を含め政府翼賛系メディアや一般の"強制"否定派も気づかない。否、気づけないのだ。「吉田証言」のみが"強制"肯定派の唯一の拠り所だと勘違いしている、或いは思い込んでいることに気づかないのだ。そこに、こうした足元を掬う新証拠が現れる。また連中は躍起になって反証を探し求めるだろう。

だが哀しいかな、国連のクマラスワミ報告でも取り上げられているのは、「吉田証言」のみではない。今回判明しているような兵士や被害者の証言・記録などなのである。

当時のコフィ・アナン事務総長により任命され国連人権委員会の特別報告者を務めたスリランカのクマラスワミ元国連事務次長の報告は、日韓両国の訪問調査による報告をまとめたものであるが、国連の報告はいちメディアの報道を鵜呑みにはせず現地聞き取り調査による結果をまとめた。よって、"強制"肯定派が国内的に拠り所とされていると思われている「吉田証言」の位置付けはそれほど高くない。

事実、「クマラスワミ報告書」で吉田証言に直接言及されているのは、37ページある報告書のうちほんの2か所(1センテンス)のみで、1か所(第29パラグラフ)は吉田氏の著書に触れ、「強制連行」の根拠の一つであるという記述になっているが、もう1か所(こちらは第40パラグラフ全体)はこの4倍の分量(4センテンス)でその反証を掲載しており、これを特別報告者は「留意」していると報告書に明記している。 英語原文 AWF訳文 

このことを、政府も含め”強制”否定派は、知ってか知らずか盲目的に批判している。

その原因の一つは、どうやらアジア女性基金(AWF)の旧い翻訳の質にあるらしい。

私のようなプロの翻訳者の目からして、AWFの翻訳の品質はお世辞にも高いとはいえない。およそ公式な報告書とは思えない語調になっており(「~かもしれない」等)、訳文の表現は情緒的であり、客観性を欠き、乱暴である。

翻って原文の英語の報告は格調高く、注意深く言葉を選んで構成されている。のちの国連事務次長として事務総長自らに任命された職なのだから、慎重を期すのも当然だろう。国連の六大常設機関の一つである経済社会理事会傘下の専門委員会として出す報告に客観性を欠いた感情移入は許されない。

AWFの翻訳の質の低さは、例えば次のように、第40パラグラフの「吉田証言」に対する反証に言及している箇所の冒頭にもみられる。

【原文】 40. The Special Rapporteur noted that historian Dr. Ikuhiko Hata of Chiba University, Tokyo, refuted certain historical studies made on the issue of "comfort women", in particular Yoshida Seiji’s book, which describes the plight of "comfort women" on Cheju-do island.
【AWF訳】 40. 千葉大学の歴史学者秦郁彦彦博士は「慰安婦」問題に関するある種の歴史研究とりわけ韓国の済州島の「慰安婦」がいかに苦境に置かれたかを書いた吉田清治の著書に異議を唱える。
【私の改訳】 40. 特別報告者は、千葉大学の歴史学者である秦郁彦彦博士が、「慰安婦」問題に関する一部の歴史研究、とりわけ韓国の済州島の「慰安婦」の苦境について書かれた吉田清治の著書に対する反証を展開していることに留意する。

また否定派と肯定派の間で壮絶な編集合戦が行われていると思われるWikipediaなどでは、第29パラグラフ(吉田証言に1センテンスで言及した箇所)について言及している編集者がいるが、これも決して前後の文脈を考慮した構成にはなっていない。しかもその訳文はAWF訳のものをそのまま採用している。

【原文】 Moreover, the wartime experiences of one raider, Yoshida Seiji, are recorded in his book, in which he confesses to having been part of slave raids in which, among other Koreans, as many as 1,000 women were obtained for "comfort women" duties under the National Labour Service Association as part of the National General Mobilization Law.
Wiki/AWF訳】 強制連行を行った一人である吉田清治は戦時中の体験を書いた中で、国家総動員法の一部である国民勤労報告会の下で、ほかの朝鮮人とともに1000人もの女性を「慰安婦」として連行した奴隷狩りに加わっていたことを告白している。
【私の改訳】  さらに、強制連行を行った一人である吉田清治は、国家総動員法制下の国民勤労報告会の任務として、ほかの朝鮮人とともに1000人もの女性を「慰安婦」として連行した奴隷狩りに加わっていたことを戦時中の体験を綴った自著の中で告白している。


流石に、日本政府がAWFの訳を鵜呑みにしたまま国連に反論したのだとは思いたくないが、現在ネット上に溢れている慰安婦問題に関する論証・反論が概して、こうした質の低い翻訳に基づいて展開されていることを考えれば、いわゆる”ロストイントランスレーション((飜訳の過程で生じる本当の文意の消失)”の中でどれほどの事実が失われ、対立する双方の中で誤った認識に基づく議論が展開されているかという不毛な現実が見えてくる。

日本人の間で行われる国際問題に関する議論等というのは、得てしてこの程度のものである。

ここにきて、政府は国連広報を強化すると宣言しているが、国連の広報機関として日本に本部を置く国連広報センターをこれまで十分に機能させてこなかったのは、歴代政府の責任だ。それは第一次安倍内閣も同罪。

クマラスワミ報告にしたって、反論を呈しながら国内に政府の正規の翻訳がないということ自体笑止千万。あり得えない怠慢である。

ただ、それができないのには理由がある。人材が居ないのだ。もっと正確にいえば、国際人材を育ててこなかった。そのつけが回ってきたからといって、今更「強化」とは、本当に笑わせる。

おわりに


事実の記録を丁寧に検証し或いは反証することによってしか、慰安婦問題の強制性を否定することも、肯定することもできない。強制性の事実を証明する圧倒的な数の証言や記録に対し、これを否定できる証拠や記録は少なすぎる。

一方で圧倒的な数の証言や記録の中にも客観性・信憑性・信頼性の点で問題は多く散見される。だから"強制"否定派は「吉田証言」一本に批判の的を絞ったのだろうが、「策士策に溺れる」とはまさにこのことだ。

今後もこうした個別具体的な証言・記録による強制事実の肯定とこれに対する反証は繰り返されることだろう。だがそのこと自体が、この問題が未解決であることを示しており、「吉田証言」が捏造と判明したことただそれだけで否定派が圧倒的に有利になった訳でないのである。

はからずしも否定派は、今回「吉田証言」のみに的を絞って、「1つが捏造なら全部捏造」戦術に出たため、国際的には足下を掬われる結果となっている。ましてやその主な標的となっている国連の報告の翻訳がこの品質で、かつ、この程度の品質の翻訳を鵜呑みにする程度の検証(語学)能力しかないのでは、不毛な議論は終わりそうもない。

その様相は、傍から見てもはや滑稽でさえある。
知らぬは当人たちのみというのもあまりに悲壮だ。

はじめて自分のコラムの題名で「悲報」というネット固有の嘲笑表現を使ったのはそのためである。

まったく嘆かわしいかぎりだ。


(巻末参考比較)「吉田証言」の反証を5センテンスにわたってを記載したC章「慰安所の状況」パラグラフ40のセンテンス毎の日英併記+改訳。


2センテンス目

【原文】 Dr. Hata explained that he had visited Cheju-do, Republic of Korea, in 1991/92 seeking evidence and had come to the conclusion that the major perpetrators of the "comfort women crime" were in fact Korean district chiefs, brothel owners and even parents of the girls themselves who, he alleged, were aware of the purpose of the recruitmentof their daughters.
【AWF訳】 秦博士によれば、1991年から92年にかけて証拠集めるために済州島を訪れ、「慰安婦犯罪」の主たる加害者は朝鮮人の地域の首長、売春宿の所有者、さらに少女の両親たちであったという結論に達した。親たちは娘が連行される目的を知っていたと、泰博士は主張する。
【私の改訳】 秦博士は、1991年から92年にかけて証拠集めのため自ら済州島を訪れ、「慰安婦犯罪」の主たる加害者は朝鮮人の各首長、売春宿の各所有者、さらに少女の両親らそれ自体であったと結論付け、また両親らは娘が連行される目的を承知していたと主張した。

3センテンス目

【原文】 To substantiate his arguments, Dr. Hata presented the Special Rapporteur with two prototype systems of recruitment of Korean women for comfort houses in the years 1937 to 1945.
【AWF訳】 その主張を裏付けるために、博士は本特別報告者に、1937年から1945年までの慰安所のための朝鮮人女性のリクルートは基本的に二つの方法で行われたと説明した。
【私の改訳】 博士はこの主張の裏付けとして、1937年から1945年までの間、慰安所が朝鮮人女性を徴用する方法については基本的に二つのモデルが存在していたことを本特別報告者に説明した。

4センテンス目

【原文】 Both models provide that Korean parents, Korean village chiefs and Korean brokers, that is to say private individuals, were knowing collaborators and instrumental in the recruitment of women to serve as sex slaves for the Japanese military.
【AWF訳】 いずれの方法も、両親や朝鮮人の村長、朝鮮人ブローカーすなわち民間の個人がすべてを承知で協力し、日本軍の性奴隷として働く女性をリクルートする手先となったというのである。
【私の改訳】 このいずれのモデルも、朝鮮人の両親や朝鮮人の村長、朝鮮人ブローカー、すなわち民間の個人が、すべてを承知で協力し、日本軍の性奴隷として奉仕する女性を徴用する役割を担ったことを指し示していた。

5センテンス目

【原文】  Dr. Hata also believed that most "comfort women" were under contract with the Japanese army and received up to 110 times more income per month (1,000-2,000 yen) than the average soldier (15-20 yen).
【AWF訳】 同博士はまた、ほとんどの「慰安婦」は日本軍の契約を交わし、平均的な兵隊の給料(一か月15-20円)よりも110倍も受け取っていたと考えている。
【私の改訳】 秦博士はまた、ほとんどの「慰安婦」は日本軍との契約下にあり、平均的な兵隊の給料(月15~20円)の最大110倍もの収入を得ていたと考えられるとした。

(※補足)秦氏はこの報告の公表の後で、報告書は自分の説明を誠実に反映していないと反論しているが、それは確かにAWF訳だけを見ればそう感じる。とくに4センテンス目で、AWF訳の「手先となったというのである」では、まるで秦博士がそう主張したように捉えられるが、正確には「役割を担ったことを指し示していた」という特別報告者としての所感を示しているのである。つまり、「すなわち」以降の文章は秦氏の説明を受けた特別報告者の解釈なのであり、そこに「解釈の誤りがある」と批判するのは筋が通っているが、「私はそんなことは言っていない。嘘だ」と主張するのは筋違いなのである。これも秦氏の英語読解力の問題か、あるいはAWFの翻訳に依存した結果に生じた一つの弊害だろう。

2014/05/03

緊急転載:水俣病と戦ってきた現役医師が語る「科学論」――「科学とは何か?」 by 高岡滋医師 #美味しんぼ #鼻血


Facebookにて抜粋掲載した論文について、その著者本人から全文転記・共有の許諾を頂いたので以下掲載する。実際の論文(参考文献付き)はPDFで公開されており、ダウンロードが可能

日本の科学者  Vol.48 No.6 June 2013
『●特集● 原発のない社会をめざして ──九州からの発信──』より転載:

「科学」とは何か

──原発事故・放射線による健康障害を考える

高岡 滋(たかおか・しげる1961年生まれ.山口大学医学部卒業.
所属:神経内科リハビリテーション協立クリニック.
専門:神経内科学,臨床心理学.
福島第一原発事故後,本来の医学・公衆衛生学の手続きが無視されたまま,放射線の健康影響に関する議論がなされている.そこには,リスク仮説を立てること自体の拒絶,疫学軽視,予防原則の忘却等がみられる.その根底には,行政の隠蔽姿勢とともに,人体リスク解明の科学を理解しないままリスクを語る,個別科学の判断基準を口実に事実を無視・過小評価する等の,「科学者」として憂慮されるべき問題が存在する.


はじめに


通常の医学では,患者由来の情報をもとに医師によって診断・治療が自発的に進み,たとえ誤りが存在しても専門家間の論議により是正されていく.ところが,行政や企業がかかわる水俣病や原爆症などでは事情が異なる.私は,1980年代から水俣病の臨床や研究に従事してきたが,これらの分野では,行政の決めたストーリーが医学界や専門家集団を支配する実態を目撃してきた.このような状況下で,私たちは,環境汚染による健康影響リスクや因果関係を,本来の公衆衛生学的手法を用いて明らかにし,患者救済につないできた.

原発事故後,放射線の健康影響に関するさまざまな見解が述べられているが,原発政策へのその専門家の姿勢いかんにかかわらず,本来の公衆衛生学的なリスクや因果関係解明の手法に従って議論がなされているとは限らないようである.本来のリスクの考え方やリスク解明の手法,そしてリスクに対してとるべき態度について述べたい


1 環境汚染に起因する疾患への対応


環境汚染に対しては,原因の排除,汚染実態の解明,健康被害の解明と治療,住民への情報提供,適切な診断基準の制定,被害者への補償,再発防止などがなされなければならない.ところが,水俣病において,原因企業と行政は,これらのほとんどをまともに実行してこなかった.

原発事故発生時,私たちの最も重要な関心事は,上記の諸事項が,今後どの程度実行されていくか,ということにあった.まもなく明らかになったのは,行政による隠蔽政策である. SPEEDIの情報を提供しなかっただけでなく,日本の歴史上最大規模の核汚染であるにもかかわらず,被曝の最小化のための食品などの検査と情報公開が十分に行われておらず,ガレキ焼却など,放射能拡散に寄与するような政策が積極的に進められている.

文科省ライフサイエンス課と厚労省厚生科学課による 2011年 5月 16日の通達は,「重複調査を控える」よう,「関係自治体と調整する」よう,研究者に指示しており,科学に対する干渉となっている.同年,通常行われるべき患者調査が福島県内などで実施されないことも決定された.

また,同年 6月に発表された福島県民対象の健康管理調査は,調査対象の健康障害の項目や情報公開なども不十分であり,多くの問題がある.全体として,水俣病以上の無策と積極的な隠蔽が進行しているといってよい

2 毒性物質による健康影響の検討方法 -曝露(被曝)と健康影響の柱(図 1)


毒性物質による健康障害では,曝露(被曝)と人体への健康影響の両方のデータを検討していく必要がある.例えば,水俣病の原因となったメチル水銀中毒は,魚介類を介した経口摂取が曝露の原因であり,健康影響は中枢神経を中心としてみられる.

その際,曝露指標として毛髪水銀値が用いられることが多いが,原因物質不明とされた時期が長く,原因が判明してからも,行政が住民の詳細な調査を怠ってきた.しかも,頭髪は月に 1 cm伸びる.過去の曝露を証明する数値の多くは存在していないが,このような状況においても,喫食歴を曝露指標として採用することにより,被害の実態を明らかにし,個人診断も可能となった.数値をもとに検討できればより有利な面もあるが,その数値自体に技術的,社会的限界が存在しうる.限界が存在しても,その前提の元で科学的考察を行うことは必ずしも不可能ではない.



放射線被曝の場合は,曝露様態がより複雑であり,外部被曝と内部被曝が存在するし,放射性微粒子による局所高線量被曝の健康影響も考えなければならない.これらの被曝様態の差異により,健康影響の現れ方が異なる可能性は十分あり,本来外部被曝による人体影響を表現する単位としてのシーベルト( Sv)を,放射線被曝全体の指標として絶対化して用いるようなことがあってはならない.

また,被曝の健康影響側の指標としては,癌死が多く用いられているが,実際には,癌死以外に数多くの健康影響指標が存在し,癌死は健康被害の氷山の一角に過ぎない可能性が高い.そもそも,毒性物質の安全性の検討は,最も身体影響を受けやすい項目を指標に決定されるべきである.


3 低線量外部被曝による健康障害


100 mSv未満の低線量外部被曝による健康障害の科学的証拠がないという言説がまかり通り,複数の医学会もこの立場に立っているが,実際には, 100 mSv未満の低線量外部被曝による健康障害を認める研究は少なくない.

ICRP2007勧告「 A.4.1. 放射線反応に関する基礎データ」で,「しかしながら,がんリスクの推定に用いる疫学的方法は,およそ 100 mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないという一般的な合意がある」1と記述されているが,この力(=統計学的パワー)は発生率と調査数に依存するのであり,この記載は正しくない.

古くは Stewartが,胎内被曝の研究で 250mrad2.5 mSv)まで放射線影響の直線関係が成り立つとし 2,小児期の診断用レントゲン撮影で小児白血病が増えたという研究 3や 10mGyで小児癌が増えたという報告 4など,低線量の影響を示す研究は少なくない.

原爆被爆者データでも, 100 mSv未満の低線量でも LNTを否定する根拠はなかったとされ 5, 100 mSv以上のみならず, 5mSv以上から 100 mSv未満, 5 mSv未満の群でも癌死が多く見られた 6ことなどが報告されている.これらの被爆事例では黒い雨や内部被曝の影響が関与している可能性もある.


4 内部被曝による健康障害


ICRP(国際放射線防護委員会)は外部被曝と内部被曝はその生物学的効果が同等であると主張しているが,明確な根拠はない.むしろ,放射線の集積性や,体内で発生した α線や β線のエネルギーの大半が体内の狭い範囲内で消費されることになり,臓器ごとの影響も異なることを考えれば,内部被曝に特別の注意を与える意味がある.

WBC(ホールボディーカウンター)などを用いても内部被曝量の測定や身体影響の推定が非常に困難であることに異論はない.個人個人の内部被曝量を Sv単位で精密に換算・評価していくことはほとんど不可能であり,間接的な変数や状況で評価していくことも考えなければならない.これまで,大気圏内核実験後の乳児死亡,原子力発電所周囲での小児白血病の多発などの研究がある.

内部被曝については,特に,チェルノブイリの事例が重要である.小児甲状腺癌以外にも,汚染地域での先天奇形,白血病・リンパ腫の増加,その他の非癌性疾患などが報告されている.これらが無視されているのは, IAEA(国際原子力機関)のチェルノブイリ報告は,約 350の英文文献しか参照していないことによる.

実際には,チェルノブイリ事故の影響は,英語以外のものを含めて 15万に上る文献があり,ニューヨーク科学アカデミーの『チェルノブイリ』7は,そのうち約 5000の文献を紹介している.このなかで,発癌,癌死以外に,有病率,死亡率,加齢,良性腫瘍,循環器・内分泌・呼吸器・消化器・泌尿生殖器・骨格筋肉系・神経系・皮膚の異常や,感染症,遺伝子損傷,先天奇形,幼児死亡,出生率低下,知能指数低下などが検討されている.

ウクライナ政府の報告書でも多くの健康障害が報告されており 8,ネットで参照することができる.


5 事故直後から訴えられた諸症状に関して--仮説の重要性


原発事故直後から,東日本各地で鼻出血,下痢,鉄の味などの症状が,ネット上や東日本からの避難者などから報告されてきた.医師を含む多くの専門家が,広島・長崎の経験やメカニズムを根拠として,これらが放射線影響によるものではないと言下に断言しているが,この態度は重大な問題を含んでいる.

通常,十分な症例が医師によって検討された疾患や中毒などであれば,因果関係は過去の知見によってある程度識別することが可能であるが,環境汚染物質による健康影響のように,過去の曝露事例がない,または少ない事例においては,因果関係を否定することなく,「仮説」を保持しつつ,帰納法的思考で,経過をみていかなければならない(図 2).臨床事例の検討や疫学調査などなしに,「因果関係がない」などと断定するのは,医学的にも倫理的にも間違った態度である.原因企業や行政が巨大な力で隠蔽を行う可能性のある事例ではなおさらのことである.


水俣で最初の水俣病患者が発見されたときには,メチル水銀の健康影響の全貌はわかっていなかった.政府は調査をせず,実態解明を妨害していくなかで,私たちを含む民間医師らの情報や研究の蓄積により,健康影響が徐々に明らかになってきた.環境汚染などにおいては,ほとんどの場合,同一事例が過去に存在しないことから,今後日本全域にどのような健康障害が生じてくるかについては,過去の研究を参考にしつつも,いったん,頭を白紙にもどして検討する構えが必要である.

原発事故後,日本の医学を含む専門家の多くはまったく逆方向に向かっている.日本政府の核政策に対して批判的であった研究者のなかでさえ,公然と因果関係を否定した専門家が少なくない.例えば,野口邦和氏は,「鼻血が出る,のどがいがらっぽくなる,のどが痛む,身体がだるくなるといったことは,被ばくの症状ではありません」と記述している 9

今回の原発事故でも,放射性微粒子(ホット・パーティクル)が確認されているが,一つの微粒子に 10億個もの放射性元素が存在するといわれており,これらが肺など体内に留まった時の健康影響は未知の領域である.最初に述べた鼻出血や下痢に関しては,放射性微粒子によるベータ線による局所高線量被曝によるものではないかという仮説が提出されている 10

6 公衆衛生学における因果関係の検討


それでは,放射線を含む毒性物質などの健康影響の有無の根拠は本来の公衆衛生学ではどのように検討されてきたのだろうか.現在の因果関係論やリスク論でもっとも重要視されているのは,人間のデータであり,疫学的データが多くの場合メカニズムの解明に優先して重視されている(図 3).

因果関係をめぐる考察については,まず,仮説を持つことが前提である.これは,症候とある物質との因果関係を推定することをやめたなら,その因果関係は永遠に追求されえないという単純な事実によるものである.

そして,因果関係を論じるときに,メカニズムが分かることが必要条件であると本気で考えている科学者も存在するが,一般的に疫学情報はメカニズムの解明に優先する.近年,医学分野では疫学的エビデンス(証拠)が重視されるようになってきているが,人のおかれた条件や薬剤などの介入が,実際にどのような影響を与えるのかについての疫学情報が,臨床的判断に用いられている.

これは,人体が一つの個体として成立しているということを重要な前提条件とする考え方が基本にあるからである.これらについては,津田敏秀氏が詳しく論じている 11

繰り返すが,環境の毒性物質による健康影響という因果関係をより鋭敏な領域から探っていくための最も重要な分野は疫学である.その疫学も,後追いの営みであり,予防原則が重視されなければならない.


7 科学とは何か?


今回の原発事故後,さまざまな場で「科学」という言葉が異なった意味合いで使用されている.社会・人文科学がどこまで科学でありうるのか,という議論もありうるが,ここでは主として医学を含む自然科学領域を念頭におく.

原発事故に関連して最も重要な点は,公衆衛生学や疫学の手法を科学に含めるか,という問題にある.科学を定義するとき,「数値化」「客観性」「再現可能性」「批判可能性」など,さまざまな基準や定義がありうるが,それぞれの基準には限界がある.その前に,「科学」とは「知の体系」を論理的に追求し,論理的な説明としての根拠を追求する営み 12であるということを忘れてはならない.そして,その根拠の明示ができるレベルは,その学問分野の体系や,その時代の現実の技術的能力,社会環境等によって変わってくるのである.

そのような基本的立場に立ち返って現時点での科学を捉えるならば,疫学は科学の営みである.例えば,疫学,物理学それぞれの分野での個別科学を実現する考え方や具体的行為は当然異なる.個別の厳密性や曖昧性のみを取り出して比較すれば,物理学と比較して疫学には交絡要因やバイアス(系統誤差)などの曖昧な部分がより多いといえるだろうが,それを物理学的手法やメカニズム解明によって代替することは不可能である.当然,疫学の個々の研究のなかでどれがより精密であるかという議論は存在しうるにしても,疫学という体系全体が科学の営みなのである.そのような前提が存在するからこそ,放射線以外の分野で,疫学は安全性のために,科学としても社会のなかでも適応され,有効に機能してきたのである.

内部被曝の健康影響を示すものとして, 2004年のトンデル論文がよく引き合いに出されるが,前述の如く,その他にも数多くの研究が存在する.坂東昌子氏は,トンデル論文をもとに,「確固とした証拠にできるだろうか」と述べている 13が,このような論評の仕方は疫学そのものへの理解が不足しているためであろう.疫学では因果関係は1対1という前提に立つものでもないし,交絡要因やバイアスが存在しうる前提で議論がなされ,因果関係や安全性は総括的に考察されるべきものなのである.

この点で,公衆衛生学・疫学における因果関係論における自らの誤りを,分かりやすく語っておられるのが今中哲二氏である.今中氏は,被曝データのうち,広島・長崎データとチェルノブイリ甲状腺癌を「確か」な領域,科学的推論の基盤とし,その他の疫学的知見(実際にはおびただしい数のものが存在する)を「確かかどうかはっきりしない」科学的推論の基盤とならないものとしている 14.しかしながら,放射線以外の分野では,今中氏が曖昧とするものも含めて,公衆衛生学的,疫学的知見全体を検討することによって,安全に関する政策や規則などが決定されてきたのである.

公衆衛生学・疫学を科学の範疇に含めないのであれば,人間への安全性を追求していくことはほとんど不可能であり,そのような「科学」に基づくリスク判断は「危険極まりないもの」といってよい.ただし,今中氏は,ゴフマンの翻訳やチェルノブイリなどの数多くの疫学研究を日本に紹介し,重要な役割を果たしてきていることも併記しておきたい.

8 科学と行政・政治・経済との関係


水俣病でもそうであったが,原因企業や行政は汚染や健康被害の証拠そのものを隠そうとする.したがって,科学の基礎である証拠そのものの存在を左右する政治や行政の方針に関して科学者が中立であるべきという見解は必ずしも正しくない.例えば,疫学調査のなかで,最も評価されうる手法は,居住人口全体を対象とする横断調査や前向き研究である.しかし,このような調査は行政の関与なしには困難である.おかしなもので,行政というものは,しばしば,行政にとって十分可能な調査を怠たりつつ,「因果関係が不明」というのである.

このように,科学と行政・政治は無関係ではない.公衆衛生学は,人間の健康と命を守る科学の一分野であり,一部の科学者の言説とは異なり,原発への賛否は,本来,重要な公衆衛生学的テーマでさえありうる.

水俣病では,多くの医学者・研究者が原因企業や行政に追随する姿を目撃してきたが,私はそれが一部の医学研究者のことと理解していた.ところが,原発事故後に判明したことは,放射線分野ではすでにグローバルなレベルでそのような構造が出来上がっていたということであり,事故後,日本の医師たちの多くが「迅速に」その構造に従属させられている.

ICRPのリスクの考え方は,従来の公衆衛生学の枠組みを外れたものである.従来の公衆衛生学分野のリスク研究や政策の枠組みで放射線リスクを考えるならば,原発などというものは許されざるものであったであろう.それを避けるために,公衆衛生学に縛られない「放射線防護学」が存在し,「リスク・コミュニケーション」という分野が歪められて利用されているという側面がみえてくる.

このような状況は,資本が科学の支配を免れ,さらに,科学を飲み込もうとする動きの表れでもある.もしも,これらを許すならば,これまで公衆衛生学が積み重ねてきたリスクの究明と対策の基本そのものがあらゆる分野で崩され,科学が人間を守るための役割を果たせなくなってしまうことになりかねない.

おわりに--症例蓄積と健康調査の重要性


前述のとおり,調査能力を持っているはずの行政は,環境汚染とそれによる健康障害の実態を隠蔽しようとする.したがって,行政に公正な調査をもとめつつも,民間での調査が必須である.しかし,調査の前に,日本の医師たちが,放射線障害による健康障害を念頭において国民の健康をみていくことがなければ,何も始まらない.

医学では,個別症例を詳細に精査していくなかで,仮説が洗練され,因果関係についての考察も進んでいく.また,個別の症例や環境変化も重要な情報となることがある.水俣病でネコが踊り狂った時点で汚染を疑うことができれば,さまざまな対策が可能であった.これらをふまえた医師や科学者による仮説検討と試行錯誤のなかで,国民による被曝影響に関する調査・研究が進んでいくことを展望したい.

最後に,科学者が,科学本来の意味と役割,諸科学の基盤や枠組みを自覚しなければ,科学者の自称する「科学的」行為が,進んで人倫に反する役割を積極的に推進する結果となりうるということを述べて終わりとする.

引用文献
  1. ICRP 『国際放射線防護委員会の2007年勧告( Pub. 103)』 (日本アイソトープ協会, 2009)p.131.
  2. ジョン・W・ゴフマン『新装版人間と放射線』(伊藤秋 好他訳, 明石書店, 2011)p.333.
  3. Bartley, K., Diagnostic X-rays and risk of childhood leukaemia. International Journal of Epidemiology 39, 1628–1637(2010).
  4. Doll, R., Risk of childhood cancer from fetal irradiation. The British Journal of Radiation 70, 130-139(1997).
  5. Pierce, D.A., Preston, D.L.: Radiation-related cancer risks at low doses among atomic bomb survivors. Radiation Research 154, 178-186(2000).
  6. Watanabe T. et al.: Hiroshima survivors exposed to very low doses of A-bomb primary radiation showed a high risk for cancers. Environ. Health Prev. Med. 13, 264-2702008).
  7. Yablokov A.V. et al.: Chernobyl Consequences of the Catastrophe for People and the Environment.(The New York Academy of Sciences , 2009).『調査報告チェルノ ブイリ被害の全貌』(星川淳監訳, 岩波書店, 2013).
  8. Ministry of Ukraine of Emergencies: Twenty-five Years after Chornobyl Accident: Safety for the Future.(2011).
  9. 野口邦和『放射能からママと子どもを守る本』(法研, 2011)pp.102-103. 
  10. 郷地秀夫「福島原発事故を経て,今,臨床医に求められるもの」『月間保団連』No.1084, 16-21(2012). 
  11. 津田敏秀『医学と仮説』(岩波書店, 2011). 
  12. 長岡亮介『科学の思想と論理』(放送大学, 2001)p.22. 
  13. 坂東昌子「分野を越えた 21世紀型学問の構築」『日本の科学者』47(3),48-51(2012). 
  14. 今中哲二『低線量被曝リスク評価に関する話題紹介と問題整理』第 99回原子力安全問題ゼミ(2004年12月).

付録:高岡医師執筆のその他関連論文



2013/11/21

Fuel removal of Fukushima Reactor 4 commences: decommissioning of the crippled nuclear power plant enters a new stage | Kahoku Shimpo

Fuel removal of Fukushima Reactor 4 commences: decommissioning of the crippled nuclear power plant enters a new stage

核燃料取り出し開始 廃炉作業、新段階 福島4号機


November 19, 2013
Originally posted by Kahoku Shimpo

Reactor 4 SFP (Spent Fuel Pool) slated for removal operation
Source: TEPCO (8 Nov 2013) *Japanese

*Click the image to enlarge

According to Kahoku Shimpo, as part of a cleanup process of the crippled Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, its operator Tokyo Electric Power Co. (TEPCO) has commenced its operation of removing the nuclear fuels from Reactor No. 4 this Monday. The removal of spent fuels from the crippled reactors "will mark the beginning of a new stage of the plant's decommissioning process that is estimated to take at least four decades," Miyagi Prefecture's local newspaper reported.

Underwater fuel removal process
Source: Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Fuel Removal from Reactor 4 Spent Fuel Pool (Nov 2013)


According to the report, the removal of the first fuel assembly started at 3:18 p.m. of the same day. The operators manipulated the "fuel handling machine" and lifted the 4.5-meter-long "fuel assembly", in a pace of one centimeter per second, and then transferred it onto a 5.5-meter cask--a steel-made transfer chamber that weighs 90 tons if willed to maximum capacity--in the the water. The operation was repeated for 40 minutes per unit, completing the loading of four units by 6:45 p.m. to end the operation for the day.




Kahoku reports that the task of loading the cask with 22 fuel assemblies is to be completed by Tuesday afternoon (November 19). The loaded cask itself will then be lifted by a large crane and transported to a common storage pool about 100 meters away. 

Source: Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Fuel Removal from Reactor 4 Spent Fuel Pool (Nov 2013)

The spent fuel pool or SPF still contains the remains of small debris from the blast that destroyed the main reactor building. The assemblies may contact these debris upon their removal. But according to Kahoku, TEPCO says, "We will put safety at the top while proceeding with our operations."

The SPF stores 1,533 units of fuel assemblies, of which 202 are new fuels that are relatively easy to remove. TEPCO plans to remove them first. The remaining 1,331 units that contain highly irradiated spent fuel will all be removed and transferred to the common storage pool by the end of 2014.

Source: Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Fuel Removal from Reactor 4 Spent Fuel Pool (Nov 2013)
The SPF of Reactor 4 contains three units of damaged fuel assemblies that are deemed difficult to remove. TEPCO is considering to build a new transport chamber to address this problem.

At the time of the earthquake that crippled the plant two-and-a-half years ago, Reactor 4 was going through a regular inspection and all of its fuels within the reactor core were transferred to the neighboring spent fuel pool, thus managing to avoid core melt down. However, if the water in the SPF is depleted, a massive amount of highly irradiated substances could leak out. The international community has been imploring TEPCO to address the problem and secure a safe storage of the spent fuels.

The removal of the fuels from Reactors 1-3 is to commence after 2015, but the recent revelation of the fact that 70 out of 292 units of fuel assemblies stored in Reactor 1 are damaged is raising concerns of its impact to the entire removal schedule. (related story)

Source: Safety Measures etc. concerning Fuel Removal from Unit 4 in Fukushima Daiichi NPS (5 Nov 2013)

Kahoku's Editorial Comment: 

The excuse of "unexpected events" is no longer acceptable

As the operation of removing the spent fuel from Reactor 4 commences, TEPCO is seeing this as a rare opportunity to demonstrate that everything is proceeding as planned in the decommissioning process of the crippled Fukushima Daiichi Power Plant, as they have been under a strong criticism in the way it has dealt with problems like contaminated radioactive water leakage and 'unexpected' blackouts, having the tendency to "approach issues with an optimistic outlook." Hence, TEPCO has placed the removal operation as one of its chief goals for the time being.

One of the major concerns over the removal operation is the possibility that the fuel cask may fall. If it falls from five stories above the reactor building, it could damage the fuel assemblies. If the cast breaks, a highly irradiated substances may be dispersed into the air, causing a severe problem.

TEPCO claims that they have prepared for everything that they can expect. They say they have prepared not only for the falling of the cask but for each cases, for example on emergency cooling of the SPF, leakage of the water in the SPF, earthquakes, fires, and even accidents caused by the transport trailers. So they have prepared a case-by-base scenario, but what if they happen simultaneously all at once in multiple instances? TEPCO assumes, "Such a thing will never happen."

In normal operation, the cranes transferring the fuel assemblies operate automatically. However, in this operation, it is done manually by the operator. The operator will wear a full-sized mask that may narrow the field of vision. There is no guarantee that there will be no human error caused due to difference in the operational environment.

The disaster that crippled the site two years and eight months ago occurred in multitude of instances. TEPCO must be vigilant on their plans that extend to the end of next year to ensure that their plans are fool-proof. We can no longer afford to accept the excuses of "unexpected events" any more.



Translation and additional reference by: 

A quarter of all nuclear fuel assemblies in Fukushima's Reactor 1 damaged before the earthquake, says TEPCO | Kahoku Shimpo

A quarter of all nuclear fuel assemblies in Fukushima's Reactor 1 damaged before the earthquake, says TEPCO

福島第1原発1号機 燃料震災前破損70体 全体の4分の1


November 16, 2013
Originally posted by Kahoku Shimpo

Reactor 4 SFP (Spent Fuel Pool) slated for removal operation
Source: TEPCO (8 Nov 2013) *Japanese

*Click the image to enlarge

According to Kahoku Shimpo, 70 of the fuel assemblies in the spent fuel pool (SPF) of Reactor 1 of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, which accounts to a quarter of total of 292 of them stored within the SPF, was damaged before the Great East Japan Earthquake hit the area on 11 March 2011 crippling the facility, its operator Tokyo Electric Power Company (TEPCO) revealed on Friday. This has raised concerns of the planned removal of fuel and decommissioning operation of the same reactor scheduled to begin as early as 2017, as technologies to remove a damaged fuel assembly have yet to be established, reports the local newspaper.

 (Official video presentation by TEPCO on the removal operation)


Until Friday, TEPCO has never revealed the details on the matter. But as they explained they insisted that they have "always informed the government." According to them, the 70 fuel assemblies in question were removed from the reactor and stored in a different location within the SPF due to "leakage of radioactive substances out of small holes found in them," creating recurring problems. 

The fuel removal scheduled to begin on Monday for Reactor 4 has also suffered a setback, as there are at least three fuel assemblies that are also damaged and the company has determined that it would be too difficult to perform and has set them aside for future operations. (related story)

Aside from Reactors 1 and 4, Reactor 2 has three, and Reactor 3 has four assemblies that are also damaged, making the total number of damaged assemblies to 80. TEPCO is considering the option of building a new dedicated transport vessel to address the issue.

Source: Safety Measures etc. concerning Fuel Removal from Unit 4 in Fukushima Daiichi NPS (5 Nov 2013)

On the reason why so many of the damaged assemblies are concentrated in Reactor 1, TEPCO explained, 


"Reactor 1 is our oldest power station and we have heard reports that the quality control of the fuel rods during their production was poor and the product quality was also inferior. Rods for Reactor 2 and beyond have been refined and their quality have improved."

Reactor 1 was TEPCO's first nuclear power plant to start its operation in March 1971.



Translation and additional reference by: 

2013/11/20

《和訳》ロイター11/14付『使用済燃料の一部、震災前に破損していた』(補足資料付)

使用済燃料の一部、震災前に破損していた

Some spent fuel rods at Fukushima were damaged before 2011 disaster

2013年11月14日 06時32分

取り出し作業の対象となる使用済燃料プール
出典:東京電力『福島第一原子力発電所の緊急安全対策』(2013年11月8日)

※画像はすべてクリックで拡大できます。
[東京 14日 ロイター]18日から、1年間に及ぶ慎重かつ危険な取り出し作業が始まる福島第1原発の原子炉の使用済燃料集合体のうち3体が、東日本大震災で発生した地震や津波以前に破損していたことが14日、分かった。この破損した3体の燃料集合体について東京電力は、1500体の取り出し用に設計された通常の大型輸送容器では原子炉4号基から取り出し不能であることを表明した。(※補足:現在の燃料貯蔵量

燃料集合体は、50~70本(最高72本)の高濃度放射性使用済燃料棒が収容される全長4.5メートルの容器(チャンネルボックス)から成る。(※下図参照)

 [補足資料1]燃料集合体と燃料ラック(出典:資料2

破損した燃料集合体の1つは、最も古いもので1982年に破損していた。移送時の取扱いミスにより折れ曲がってしまっているという。東電が今年8月に発表した11頁の情報シートに小さく記載があった。(関連報道


[補足資料2]同資料に記載された1982年時に起きた破損を詳述する箇所(資料4



東電2010年4月のプレスリリースで、同原子炉建屋内の核燃料プールに補完された2体の使用済燃料集合体が、「線状の異物」の混入により取り出し不能になっていたことを公表。また同社永井義一広報担当が14日本紙に語ったところによると、2体の集合体内の一部の燃料棒にピンポール級の亀裂があり、低線量の放射性ガスが漏えいしている


出典:東京電力「4号基使用済燃料プール内における異物の調査結果について」(2010年4月6日)



[補足資料3]同資料に記載された1体目の「線状の異物」の位置と拡大写真


[補足資料4]同資料に記載された2体目の「線状の異物」の位置と拡大写真


破損燃料の存在は、東電がまさに4号基から全ての使用済燃料を取り出す廃炉作業に取りかかろうとしていた矢先、13日に現地福島の新聞が[県廃炉安全監視協議会の現地調査の結果として]明らかにしていた。
[補足資料5]15日付で発表された東電参考資料に記載のあった情報(出典:資料1
"The three fuel assemblies ... cannot be transported by cask,"「3体の燃料集合体は、(通常の)輸送容器では輸送できない」
東電の吉田真由美広報担当は14日、本紙のメールでの問合せに対しこう回答した。スチール製の大型輸送容器(“キャスク”)は破損した原子炉建屋の高層部分から施設内の安全な保管場所へと燃料集合体を移動する際に使用される。同社の吉田広報担当はこう続けた。
"We are currently reviewing how to transport these fuel assemblies to the common spent fuel pool,"「現在、これら燃料集合体を共用の使用済燃料プールへと輸送する方法について再検討している」
[補足資料6]健全燃料の輸送に使用される大型輸送容器"キャスク"(出典:資料2

東電は数日後、400トンもの危険な使用済燃料を取り出すという、多大な危険を伴う極めて慎重かつ前例のない作業を開始する。破損した燃料集合体の存在は、作業を更に困難なものにし、12か月で燃料取り出しを完了するという極めて野心的なスケジュールにも影響を及ぼす可能性がある。


[補足資料7]4号基の燃料取り出しの全作業工程(出典:資料2

危険で複雑な作業

福島第一原発の3基の原子炉は、2011年3月の東日本大震災の後でメルトダウンして爆発を引き起こし、近隣の町や村の住民16万人を強制的に避難する要因となった。震災後2年半の間、事故を収容しようと足掻いてきた東電は、6つの原子炉からなる施設の完全な廃炉作業に移行しようとしている。
喫緊の課題は、地上18メートルに立地する不安定な原子炉4号基から燃料集合体を取り出すことにある。その高さゆえ、新たな地震に対して極めて脆弱だからだ。この作業は、何兆円もの費用と何十年もの年月がかかるとされる施設全体の廃炉作業のテストケースになると見られている。
米原子力規制委員会に在籍した外部専門家として東電に招聘されているレイク・バレット(Lake Barrett)氏(英文履歴は13日、施設を訪問し、燃料集合体の取り出しについてこう述べ、作業の開始を支持した。

"While removal of the fuel is usually a routine procedure in operating a power plant, the damage to the reactor building has made the job more complex," he said, adding he was "genuinely impressed by the thoroughness of the effort and Tepco's contingency planning."「核燃料を取り出す作業は原発を運営する上では通常行う作業だが、原子炉建屋への損傷がこれをより複雑なものにしている。東電の入念な準備と非常時の態勢には純粋に感心している。
東電は11月中旬にも燃料集合体の取り出し作業を開始すると発表しているが、具体的な日付については安全保障上の理由のため公表していない。

燃料集合体はまず、使用済燃料プール内の燃料ラックから取り出し、スチール製のキャスクに個別に収納する必要がある。またその間、各集合体は加熱しないよう常に水中に補完し続けなければならない。
[補足資料8]燃料集合体が取り出される仕組み(出典:資料3

燃料集合体で満杯になった重量90トンのキャスクは、クレーンによりプールから吊り上げ、地上に待機するトレーラーに積み込まれ、100メートルほど離れた共用保管場所へと輸送される。
[補足資料9]クレーンが行う作業の手順(出典:資料3

  • 動画 4号機使用済燃料プールからの燃料取り出し(2013年10月30日掲載)
  • 資料1: 福島第一原子力発電所4号機からの燃料取り出しにかかる安全対策等(2013年11月15日)
  • 資料2 4号機使用済燃料プールからの燃料取り出し(2013年11月12日掲載)
  • 資料3: 福島第一原子力発電所4号機使用済燃料プールからの燃料取り出しについて(2013年10月30日)含FAQ
  • 資料4: 福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画の変更認可申請について(2013年8月30日)

原文元記事:
Some spent fuel rods at Fukushima were damaged before 2011 disaster
REUTERS, Thu Nov 14, 2013 6:32am EST
翻訳・追加調査・補足: 
Office BALÉS NEWS