不慣れな候補者の多い日本のネット選挙
Japan gets Net campaign, but not savvy candidates
影山優理 2013.07.17
2013年7月12日に撮影されたこの写真では、東京で参議院選挙に立候補中の山本太郎の選挙演説をツイッター配信用のビデオカメラが捉えている様子が映し出されている。7月21日投開票となる今回の国政選挙は、日本で初めて、インターネットを介した選挙運動が合法なものとして認められた選挙となる。俳優から国会議員候補へと身を転じた山本候補は、キャンペーン演説をライブストリームで中継し、聴衆には自分の写真をツイートするよう求めている。このソーシャルメディア巧みに使いこなす“ネット慣れ”したアプローチは、長年この地を牛耳ってきた旧式の選挙活動からは大きく袂を分かつものだ。(撮影:イツオ・イノウエ)
[東京 17日 AP] 山本太郎。国会議員候補へと身を転じた日本人俳優である彼は、キャンペーン演説をライブストリームで中継し、聴衆には自分の写真をツイートするよう求めている。このソーシャルメディアを巧みに使いこなす“ネット慣れ”したアプローチ("tech savvy approach")は、長年この地を牛耳ってきた旧式の選挙活動からは大きく袂を分かつものだ。
来週の日曜に予定されている参議院選挙は、日本でインターネット上の選挙キャンペーンが解禁されて最初の選挙となる。ソーシャルメディアにおいては未だ新参者である政党や候補者たちは、その得票に繋がる使い方を躍起になって追い求めているところだ。数百名しかフォロワーのないツイッターアカウントや、昼に食べたそばの写真しか載せていないようなフェイスブックの投稿も多数見受けられる。
その中で20万のフォロワーを誇る山本氏は例外的存在である。
「どうぞ僕の写真を沢山撮ってツイートしてください」反原発活動家でもある彼は今週、支援者たちに向かってそう呼びかけた。
通常ならば、選挙候補者たちはショッピングセンターや電車の駅、団地ブロックなどを駆け巡って、可能な限り多くな人々と握手を交わす。走り去るワゴン車の中から狂ったように手をふり、ラウドスピーカーは繰り返し繰り返し候補者の名をがなり立てる。実体-候補者の提案する政策-の広報にかけられる時間は少ない。
ネット選挙の唱道者たちは、ネット選挙解禁がやがては有権者がそれぞれの候補者に関して学び、その理解と知識に基づいた選択をして行くだろうと考えている。
日本の選挙法はより資金の潤沢な候補者にハンデが与えられることのないよう、チラシほかキャンペーンに用いられる印刷物などに関して厳しく制限している。これまで、それらの規則は選挙活動におけるインターネットの使用を禁ずるものと解釈されてきた。今年施行された新法は、いくつかの特例を除いて、基本的にそれを解禁するものだ。Eメールの使用などはスパムの洪水を予防するため、政党と候補者にのみ認められ、支援者にはなお禁じられている。
第二次大戦以来日本の政界における支配的存在であり、旧い選挙法を形成してきたのが現与党の自民党であるが、今彼らはソーシャルメディア上の活動に忙しい。
安倍晋三首相はフェイスブックで37万4千、ツイッターで15万1千、そしてアジア圏で人気のあるインスタントメッセージネットワークLINEでは200万以上のフォロワーを獲得。この一週間に、自身が候補者の応援演説をする様子や日の丸を振る支援者たちの写真を投稿している。
与党が立ち上げたインターネットキャンペーン戦略チームは、スマートフォン用のゲームを作成。ユーザーが漫画風に描かれた安倍氏を端末を振ることで操作し、あたかもスーパーマリオのごとくジャンプしたり側転したりさせながら、初心者議員から首相へと政界における出世の階段を上らせるというゲームだ。
弁護士であり、最近ネット選挙に関する著作を出版したタカガキ・イサオ氏は、ソーシャルメディアは投票率の増減には繋がらないだろうと予測する。有権者の大部分は高齢者であり、彼らはインターネットには最も興味を持たない層だ、と彼は説明する。
「あと10年はかかるでしょう」とタカガキ氏は言う。多くの候補者がソーシャルメディアをスケジュール帳か日記程度としてしか使いこなせていないことも問題のひとつだろう。
「どれも同じに見えるんです」と、科学研究機関に勤務するウエノ・タカヨシ氏は言う。日本の共同通信による最近の世論調査で、およそ75%の回答者は、今度の日曜の選挙において誰に投票するかの選択にインターネットを利用しないだろうと答えた。20代の半数ほどは利用すると答えたが、60代・70代においてこの数字は85%まで上昇する。
山本氏の選挙活動にボランティア参加するデザイナー、キムラ・ヨシマサ氏は、インターネットは1万4000枚以上のポスターを掲示するための人員を集める上で大きく役立ち、またこれまで政治的な関心の薄かったテクノロジーの専門家等を呼び込む役割を果たしていると言う。
「ネットを介して、一度も会ったことのない数多くの支援者を頼ることができます」とキムラ氏。
「そしてそれらは全て、単純な信頼に基づくものです。なんだかんだいって社会もそう悪いもんじゃないですよね」
津波が福島の原子力発電所を呑み込んだ2011年3月以降、ツイッターは反原発運動を刺激するにおいて重要な役割を果たしてきた。ソーシャルメディアによって、それまで日本の街頭抗議行動にはあまり見られなかった若者や女性といった層が呼び込まれた。俳優兼政治家である山本氏はこのムーブメントに積極的に関わっており、それらの活動を通してソーシャルメディア上での存在感を高めてきた。
スマートフォンアプリの作成と管理を行うWebサービス、『Yappli』を開発したFastMedia社は同サービスを改良し、選挙活動用アプリの構築を可能にした。このアプリを使用したユーザーはスマートフォンのみを利用することで、政綱が記された文書のページをめくったり、あるいは候補者の写真をタップして詳しい情報を得たり、YouTubeのビデオを閲覧することができる。
このサービスに契約した顧客は二名。野党候補と共産党のみだった。
「商売にはなりませんでしたね」と、FastMediaのイハラ・ヤスブミ氏は笑う。
「まだ、群に先んじた人たちだけのものみたいです」
(原本著者Yuri Kageyama氏の許諾の下転載)
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